関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
セッションID: 108
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半側空間無視患者のADL回復に体性感覚情報の統合が有用であった症例
青木 幸平木島 隆
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抄録

【はじめに】
半側空間無視(以下USN)患者に対し環境設定をすることでADLが向上することを良く経験する。しかし、これはUSNの回復とは異なるため、変化する環境下になると著しくADLが低下するなどの狭小化が懸念される。今回、USNに対しアプローチを行った結果、USNが回復しADLが向上した症例を経験したため報告する。
【症例紹介】
H23/10/25右内頚動脈梗塞発症後、血栓融解療法(t-PA)を実施し、11/28リハビリ目的で当院へ入院した64歳男性。Brunnstrom stageV-V-V、感覚障害は表在・深部共に軽度鈍麻、立位や歩行は可能だが体幹が右に傾き正中より左側に回旋困難で障害物もよけられなかった。重度の左USN(線分抹消検査、右側より2/7列まで抹消可能)と半盲を認め、軽度の半側身体失認があった。Barthel Index(以下BI)は40点で、減点項目は食事・整容・排泄・移乗・移動・階段で、ベッド上以外の動作に介助が必要であった。
【治療方針】
空間制御は、視覚・体性感覚双方の統合により行われ、前頭・頭頂葉間が関与していると考えられている。左側への声かけによる注意を向ける訓練では、左視空間無視領域の空間形成や探索行為につながらないことが予想される。その為、視覚と共に体の位置や動きに基づき、探索行為を行うことでUSNが改善し、ADLの向上に寄与するものと考えた。尚、治療方法は患者及び家族に十分に説明し書面にて同意を得た。
【治療・結果】
USNに対する治療は、視覚・体性感覚双方の統合を目的に、閉眼で物品を手で触り場所を答え、開眼して視覚で確認した。次に、物品の形や色を記憶し、自身から見てどの位置に置かれているかを回答する訓練を座位で行った。その結果、線分抹消検査は右側より6/7列まで抹消が可能となりUSNが改善した。BIは85点となり、減点項目は階段・歩行と改善し、トイレまでであれば(10m)歩行自立となった。初期の患者は「左側を見るときにはかなり疲れる」と言っていたが、リハビリ介入1ヶ月半頃には「自然に注意を向けられるようになった」と内省も変化した。
【考察】
ADL訓練を実施せずにBIの点数が向上したことからも、USNが改善しADLが向上したと言える。体性感覚情報で左側空間を探索し、その位置情報を元に視覚で確認する行為を行ったことにより視覚・体性感覚が統合し、結果,患者自ら左側を認識できるようになった。そして、障害物の回避行動や目的地までの到達が可能となり自然にADLが向上したと考えられた。また、今回の試みにより、USNの改善には体性感覚での空間制御が有用であると考えられた。

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© 2012 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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