関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
セッションID: 140
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BTA療法で動作レベルの改善が確認できた一症例
栗原 拓郎佐々木 隆一小見田 美紗子三瓶 建二福山 勝彦
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抄録

【目的】
近年、脳性麻痺に対しA型ボツリヌス毒素(Botulinum toxinA,以下BTA)療法に関する報告を散見する。また2010年10月には脳卒中後遺症による痙性麻痺患者にも保険診療が認められた。BTA療法とは、神経伝達物質の遊離を阻害する筋弛緩剤であり、痙性を抑制し介助量軽減・基本動作・歩行能力など幅広い改善が期待される。今回我々は上肢に対しBTA療法を施行し、基本動作の改善を確認できた症例を体験したので報告する。
【方法】
対象者は2年前に右被殻出血にて左片麻痺、Brunnstrom Stage上肢Ⅲ・手指Ⅲ・下肢Ⅲの64歳女性である。歩行はT字杖、SHBにより自立していたが、上肢屈筋共同運動が著明で腹臥位が困難、床からの立ち上がり動作(高さ40cmの台使用)は下肢伸筋共同運動が著明で、両膝立ちから片膝立ちの移行が困難で介助を要した。BTA療法は、左麻痺側上肢(撓・尺側手根屈筋・浅・深指屈筋50単位、長母指屈筋・母子内転筋20単位)に施行した。治療効果判定は16週間とし、評価はRange of motion(以下ROM),Modified Ashworth Scale(以下MAS)および基本動作とした。なお、対象者および家族には発表の旨を説明し、評価、治療の記録について発表の了承を得た。
【結果】
BTA療法1週目において、肘関節伸展ROMは治療前、-20°だったものが、0°に改善、MASはBTA療法前2であったが、施行後1週間で撓・尺側手屈筋・浅指屈筋は1+、深指屈筋・長母指屈筋・母子内転筋は1まで減弱した。基本動作では1週間で腹臥位を獲得し、床からの立ち上がり(台を使用しない状態)は8週間で自立レベルとなった。また、12週目以降からMASはBTA療法前の2に戻る結果となるが、獲得した基本動作は現在も維持している。
【考察】
2関節筋である撓・尺側手根屈筋・浅指屈筋のMAS減弱により、上肢屈筋共同運動を抑制させ腹臥位の獲得につながり、腹臥位での訓練を可能とした。まず緊張性頸反射を利用して、下肢屈筋の緊張を優位にさせ、梨状筋、2関節筋である大腿四頭筋の筋緊張を減弱させ、下肢伸筋共同運動を抑制させた。次に下肢の分離運動を促通し、下肢屈曲運動が獲得されたことで、介助を要した両膝立ちから片膝立ちの移行が随意的に可能となり、床からの立ち上がり動作が自立できたと考える。
 【まとめ】
上肢にBTA療法を施行し、立ち上がりが自立した症例について報告した。BTA療法は痙性抑制を利用し基本動作の改善、訓練効果の持続に有効と考える。

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© 2012 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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