関東甲信越ブロック理学療法士学会
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第31回関東甲信越ブロック理学療法士学会
セッションID: 286
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頸椎椎間板ヘルニア患者が術後下肢完全麻痺やDVTから歩行機能再獲得し,早期に職場復帰を果たした一症例
川村 雄介
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抄録
【目的】
頸髄症患者の合併症として,深部静脈血栓症(以下,DVT)は理学療法の妨げになり生命の危険にさらされる。また社会的課題は職場復帰であり,職種によって要復帰期間は異なる。本症例は術後血腫による症状悪化で下肢完全麻痺となり,DVTを発症しながらも運動療法で歩行機能再獲得し,早期に同職種復帰を果たしたのでここに報告する。なお,本人より個人情報保護の誓約に対する同意を書面にて得た。
【方法】
39歳男性。椅子製造業勤務。平成23年5月下旬に右下肢疼痛で発症。7月下旬に両下肢脱力により歩行障害を呈し,MRIにて頸椎椎間板ヘルニア(C5/6)と診断され当院入院となる。観血的治療が計画され術前より理学療法を開始した。
[経過]第2病日目のMMTは上肢5,下肢4。下肢MAS3。第7病日目に頸椎前方固定・除圧術施行。第11病日目に寝返り中の全身通電感後より四肢筋力低下が出現。MMTは上肢3,下肢0。MRIで血腫による脊髄圧迫確認。第20病日目で呼吸苦を訴え,造影CTにて両側肺動脈本幹等に巨大血栓を確認しDVT発症。理学療法中止。ICU管理後の全身状態は安定し,第42病日目に頸椎椎弓形成拡大術施行。術翌日に理学療法再開し、MMTは上下肢2。歩行時に挟み足や踵打ち歩行が出現。第90病日目に松葉杖歩行で試験外泊。第106病日目で自宅退院。その後は外来通院練習実施。最終評価のMMTは上肢4,下肢5。下肢MAS1。
【結果】
入院中は最終到達目標を歩行器歩行で自宅生活としていたが,徐々に上下肢の筋力強化を認め,痙性が軽減し,発症後約3ヶ月で自宅退院。外来通院時に松葉杖やT字杖使用下から独歩となり,異常歩行が消失して正常歩行獲得。発症後5ヶ月で椅子製造業復帰を果たした。
【考察】
頸髄症の術後脊髄症状悪化率が約4%,復職率は約30%で要復帰期間は約8ヶ月と報告されている。本症例は不動や安静による約3週間の理学療法中止期間を経て,早期職場復帰となった。初期治療は足底感覚刺激や筋力強化,歩行練習を実施した。しかし異常歩行出現後,即座に荷重・多関節連鎖運動を重点におき正常歩行動作を反復。さらに体幹・下肢近位筋の筋力強化や,重心低位置から開始するバランス練習を中心とした治療内容に変更した事により,歩行機能再獲得や職場復帰に効果的であったと考える。加えて患者が障害克服に対する強い姿勢を維持していた事も重要であったと考える。
【まとめ】
本症例は中枢神経障害後の神経可塑性により機能的再構築の妥当性を示唆する。今回の経験を通して神経科学領域の進展動向を熟知し,定量的に検証された標準的治療方法を参考に,患者個人の機能特性を踏まえた理学療法を展開する事が重要であると再認識した。
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© 2012 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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