主催: 公益社団法人日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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【はじめに】地域在住高齢者の運動習慣を構築する手段として、トランスセオレティカル・モデル(TTM)という健康行動理論を用いた指導が取り入られている。一方、運動習慣の構築は、要介護高齢者にとっても生活機能の低下を予防する為には非常に重要となる。今回、複合的な疾病を罹患した要介護高齢者にTTM の活用から身体活動(PA)の向上を促し、その効果がみられたので報告する。なお、症例には事前に発表について十分な説明を行い、同意を得た。
【症例紹介】65 歳女性。要介護2。訪問リハビリテーション実施期間は約3 ヵ月間。Hope は「杖で安心して歩けるようになりたい」。病歴は、平成24 年に脳梗塞を発症し、翌年に大腿骨頸部骨折を受傷。うつ症状もあった。日常生活活動(ADL)は車椅子自走にて自宅内を移動し、トイレ動作は自立。監視下にて4 点杖歩行が可能であった。TTM に関する行動変容ステージは実行期。運動が習慣化されていない状況であった。
【経過】開始時のPA は週間歩数にて平均約240 歩と極めて少ない状況であった。TTM 活用時、行動変容を起こす方略として、セルフモニタリング・刺激統制の技法を用い、1 日のPA の測定と確認、自主運動表の提示等から行動のきっかけ作りになるように工夫した。また、行動達成後の次への意欲を引き出す為に、援助関係の利用から自己報酬を促した。その後、自立歩行実施の意思があり、下肢装具や移動先の環境調整を図ったところ、自宅内での歩行・運動機会が増加し、運動習慣の構築に繋がるようになった。最終評価時、PA は週間歩数にて平均約160 歩に向上し、行動変容ステージも維持期に変容した。
【考察】症例は疾患の影響から車椅子生活中心の生活になっており、運動習慣が定着していない状況にあった。
TTM を活用した結果、行動が変容し、運動が習慣化したことで身体活動の増進に繋がったと考える。TTM は地域在住高齢者だけでなく、要介護高齢者にも活用できる可能性が示唆される。