主催: 公益社団法人日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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【はじめに】 腰椎の椎間関節は股関節へ関連痛を生じることが知られている。今回、歩行時に鼡径部痛を呈する症例に対して、腰椎への治療を施行した。その結果、疼痛軽減と長距離歩行が可能となったため、治療経過について報告する。
【症例紹介】女性(40 代)、左鼡径部痛を主訴として来院した。画像診断ではMRI により左股関節の関節唇損傷が指摘されていた。痛みは犬の散歩時に左鼡径部(以下P1)と左膝関節(以下P2)に出現していた(約500mで歩行困難)。日常生活での症状は歩行と電車での長時間立位時のP1 であり、週1 回のテニスは問題なく行えていた。症状出現の1 か月前に右下腿後面の肉離れの既往があるが、受診時には症状が消失していた。
【理学療法経過】評価時歩行では右立脚期にデュシャンヌ歩行を呈していたが症状の出現はなかった。足踏み動作では30 秒経過時にP1 が出現した。左SLR10°位での左股関節外転でP1 が再現された。左股関節の前後方向の滑り運動を加えるとP1 消失を認めた。評価結果より左股関節の前後方向のmobilization を実施した。実施後、評価時に確認された症状は消失した。しかし2 回の治療で歩行距離の変化はみられなかったため、再評価を実施した。
再評価ではL2-4 の後前方向の可動制限が確認された。またL3 の後前方向の滑り運動時にP1 とP2 が再現された。再評価よりL3 の機能障害が症状に関与していると考え、治療は・L3 の後前方向のmobilization・左股関節の前後方向のmobilization とした。治療後、確認された症状はすべて消失した。4 回目来院時に歩行距離増大と疼痛の軽減を認め、理学療法を終了した。
【まとめ】本症例は腰椎と股関節への治療により症状の改善が認められた。下肢の外傷は脊椎の機能に影響を与えるといわれており、本症例も対側下腿の既往が発症に影響していた可能性も考えられる。患部のみの治療では効果が一時的であることが多く、症例全体の評価治療が重要であると考える。