主催: 公益社団法人日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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【はじめに】今回,注意障害,観念運動失行を主症状に多くの高次脳機能障害を持つ事例に対して,歩行能力の再獲得を目標に介入し,反復動作を通じて高次脳機能障害の影響が改善され,独歩監視に至った.その経過について以下に報告する.尚,本報告は本人・家族に十分な説明を行い,同意を得ている.
【事例紹介】60 歳代女性,診断名は右頭頂葉アテローム性脳梗塞であり保存療法実施.発症から約1 か月後に、当リハビリ病院へ入院.既往に腰椎圧迫骨折,左同名半盲等あり.病前はADL 全て自立,屋外歩行はT 字杖使用,腰椎圧迫骨折の治療目的で当院の外来リハビリに通院していた.
【理学療法評価】BRS 左下肢V,GMT 右下肢5 左下肢4,感覚は表在深部共に左上下肢重度鈍麻,起居・移乗動作中等度介助,歩行は右手すり把持左腋窩最小介助にて5m 実施可能,高次脳機能障害は,机上での検査の多くが実施困難であったため,動作上で評価をし,ゲルストマン症候群,身体失認,注意障害,観念運動失行,構成障害を認めた.
【経過】初期では左右の確認を静止時・動作時共に行なっていくことから介入し、左上下肢のボディイメージ改善と共に動作の反復訓練による定着化を実施.約4 週間で起居移乗動作監視に改善.その後,視覚入力による体幹の正中位の意識付けから介入し,歩行訓練を実施.約2 週間で独歩での訓練が可能となった.続いて独歩での訓練では,歩行時にボールを持つ等下肢に意識がいかないようにすることから介入し,反復動作による動作定着化によって失行の改善が見られ,最終的に独歩歩行監視で可能となった.
【考察】本症例では,反復動作が動作の定着化に有効的であり,歩行能力の改善が見られた.大川らは,ADLは1 日を通じて繰り返し行うものであり、脳に対する訓練効果も大きいと述べており,それに準じた結果となっている.