主催: 公益社団法人日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
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【はじめに】 今回、右内頚動脈梗塞により左片麻痺と左半側空間無視を呈し右上下肢の押し付けのため座位保持が困難な患者の理学療法を担当した。頸部に着目した介入と移乗時の動作統一によりトイレ時の座位(以下、トイレ座位)が遠位監視で可能となった症例を報告する。本報告において患者及び家族に同意を得た。
【症例紹介】 症例は95 歳、女性。Br.stage 上下肢3、 Scale for Contraversive Pushing 6 点と最重症で、座位保持は困難。トイレ座位(第17 病日)では2 人重介助を要した。頸部は常に右回旋位で、紙面上の検査では重度の半側空間無視を呈したが、鏡をみれば頸部を正中位まで回旋可能で、持続は困難であるが左側への整容や追視が可能だった。
【治療アプローチと経過】 第10 病日より当院回復期病棟にて理学療法を開始した。第19 病日より右側にパーテーションを置き、聴覚・視覚情報により自動運動を促し頸部左回旋運動を実施した。第41 病日には全方向へ注意を向けることが可能。また、軽介助で座位保持が可能となった。同時期より2 人介助でトイレ誘導を開始。車椅子から便座への移乗は麻痺側方向へ行うよう統一した。第55 病日には、トイレ座位が遠位監視で可能となった。
【考察】 Kinsbourne らは、半側空間無視のメカニズムを双方の半球が相互に抑制しあっているが、大脳半球を損傷することで、片方のみ抑制がなくなるため、注意が偏ると述べている。本症例は、初期より一時的な左側の空間認知が可能でありながら、頸部の左回旋、左側への注意の持続が困難であった。そこで、頸部の回旋可動域制限により左側からの感覚入力低下が半側空間無視を助長し、座位保持が困難であると考えた。 頸部への介入により回旋可動域が増大したこと、また麻痺側方向への移乗動作の統一により左側への感覚入力が増え、それに伴い相互での抑制が可能となったと考える。結果、トイレ座位保持が遠位監視レベルで獲得された。