2019 年 18 巻 p. 90-102
生物多様性地域戦略は,2008年の生物多様性基本法により,地方自治体に対して策定の努力義務が規定されている。都道府県では87%が策定した一方,市町村の策定率は4%に留まる。先行研究の政策波及モデルでは,国の政策採用後は新規政策の採用に向けた自治体間の横並び競争が生じることが想定されている。なぜ生物多様性地域戦略は,国の政策採用後も市町村への波及が進まないのであろうか。
本稿では,アンケート調査のデータを用いたイベントヒストリー分析を行い,地域戦略の策定に影響を与える要因を分析した。分析に際して,都道府県の政策波及モデルとして普及している動的相互依存モデルを念頭に,市町村への応用可能性を検証した。
分析の結果,モデルの想定に反し職員数などの内生条件が戦略の策定に強く影響しており,横並び競争の影響は部分的にしか確認できなかった。市町村の新規政策採用では,都道府県とは異なり内生条件が強く作用していることが明らかとなった。