抄録
古代における神器の扱いには不明な点が多い。本来、天皇即位式において宝剣とともに臣下より奉献されていた神鏡は、平安時代には宮中の温明殿(内侍所) にひっそりと納められており、常に天皇の側に置かれる神璽・宝剣に比べ、その存在はほとんど認識されていなかった。
しかし、十一世紀には天皇の御願により、神鏡のための内侍所神楽が始まり、内裏火災による焼損など、様々な要素の影響により神聖化、天照大神との同一視が進む。また、天皇の遷御にともなう神器の移動に際しても、神璽・宝剣と神鏡は全く異なる扱いを受けていた。こうした神鏡をめぐる儀礼の変化は、十一世紀に顕著に表れる。そこには、神器観の変遷が反映されていると考えられる。