2018 年 56 巻 2 号 p. 63-74
本研究では,幼児独自の規範意識について,大人の望ましさとは異なる視点から明らかにするため,保育所3歳児クラスの卒園までの継続的な観察から,三つの視点で事例を抽出し分析した。第一に,幼児が規範を根拠なく示す言動,第二に,根拠を明示しない規範の中でも特に言葉遣いについての規範を示す言動,第三に,関連する保育者の援助である。その結果,幼児は相手を規範に従わせる目的だけでなく,主張や感情などを伝える際にも規範を方略的に用いていることが示唆された。また,根拠のない規範であっても,相手が従うことにより幼児間で共有されうることが明らかになった。さらに,保育者は幼児のやりとりに応じて援助を行っているが,その中で幼児が特定の言葉について,使うべきでないという規範を捉える可能性も示唆された。今後,幼児間の仲間関係や保育者のねらいも踏まえた詳細な検討が必要である。