抄録
本稿は現在,主要な気候変動緩和策として位置づけられる排出取引の言説的な意味が日本の新聞報道においてどのように構築され,通時的に変化してきたのかを分析した.フレーミング理論に基づき,1997年から2010年までの新聞報道の批判的言説分析によって,排出取引に関する6つのフレームを同定した.排出取引のフレームは政策的な変化に伴い通時的に変化しており,2001年には批判的な言説から肯定的な言説へと排出取引の意味づけが大きく転換していた.本稿の分析結果からは,排出取引のメディア言説が緩和策のあり方をめぐる規範と共鳴し,さらには現代の資本主義経済のあり方をめぐる価値観をも内包していることが指摘できる