抄録
本稿においては,石綿健康被害救済制度の構造的問題と制度見直しの根拠を明らかにしたうえで,アスベスト健康被害者の立場から,どのような補償制度が求められるのかを検討した.本制度の課題は,他の健康被害救済制度に比べて給付内容が貧弱であるうえに,被害者ならびにその家族・遺族までを含めた包括的被害者に対して,経済的負担や介護負担を軽減するための機能,さらには身体的精神的負担を軽減するためのケアシステムを有していないことにある.このことを踏まえ,本稿では包括的被害者をキーワードに,これらの負担を軽減するための制度改革案を提示した.