抄録
本報告は,車椅子からベッドへ移乗する動作に口頭修正が必要な認知症患者に対して,視覚教示と聴覚教示を併用した動作獲得練習の効果を検討した.対象者は,移乗動作における身体機能面に問題がないものの,認知機能面の低下から口頭修正によって動作実施可能となっても,再び修正を繰り返すことが多く動作獲得に至らなかった83歳の男性であった.ベースライン期は口答指示による移乗動作練習を行った.介入期では移乗動作を7項目に細分化し実施した.プロンプトは,視覚教示として細分化した項目が記載された用紙を提示し,また車椅子,ベッドと床にそれぞれ目印となる赤テープを貼り付けた.聴覚教示は項目毎に口頭指示を統一し提示した.その結果,ベースライン期に比べて介入期では,セラピストの口頭による修正回数が減少し移乗動作の手順を獲得することができた.このことから,プロンプトを具体的に設定することにより,対象者はそれらを確認しながら確実に動作遂行でき無誤学習が成立したと考えられた.従って,認知症患者において視覚教示と聴覚教示を併用した動作指導練習は効果的な方法であるといえた.