抄録
本研究では,健常成人男性7名を対象に,10m/min,15m/minの各速度による松葉杖を用いた階段(勾配30°)昇降時の酸素摂取量および心拍数を測定し,効率値を算出することにより,その生体負担度と効率について検討した。酸素摂取量・心拍数は,下降時よりも上昇時のほうが高値を示し,昇降速度の増加による酸素摂取量・心拍数の増加の割合も上昇時のほうが大きかった。また,昇降動作全体の酸素摂取量と心拍数の間には有意な正の相関がみられた。上昇に対する下降の酸素摂取量の比は松葉杖を使用しない階段昇降の場合より大きくなった。効率値は,上昇時には特に仕事に対するエネルギーの損失が大きく,一般的な身体運動と比較して低かった。松葉杖を用いた階段の昇降は,日常の種々の身体活動と比較して,生体負担度は著しく大きく,効率は低いことから,臨床場面では十分な配慮が必要と考えられた。