抄録
一般に,関節運動は表面電極を用いた筋電図学的研究により機能的側面に重点を置いて解析されることが多い。しかし,その解析では,一部の筋線維の活動がその筋全体の活動として捉えられる危険性が生じる。本研究では,多羽状筋と言われる三角筋の構造を形態学的に調査することにより,本筋が起こす肩関節の運動方向を検討した。ヒトの三角筋14筋を用いて,腱構造や筋線維走行などを調査した。その結果,中部線維は複雑な腱構造をしており,その構造により本筋を3型に分けた。起始腱4本,停止腱5本の型が8筋と最も多く,全筋で停止腱は起始腱より1本多かった。この起始腱と停止腱は中部線維内で交互に楔形状に位置しており,その筋線維は起始腱から停止腱へと螺旋を描くように走行することで多羽状を形成していた。前部および後部線維の筋線維束は比較的平行に走行し,三角筋粗面まで及ばず停止腱に付着していた。これらの結果から,中部線維の各走行部分が個別に作用すれば,肩関節の外転運動のみでなく回旋運動などにも関与することが示唆された。