2019 年 16 巻 p. 141-156
本稿では、中小企業4社において、高齢者雇用促進のソーシャル・イノベーションが波及した事例を分析した。本稿では、就労困難な状況に置かれた高齢者に雇用を提供することにより、居場所などの労働過程の持つ価値や経済的自立を補佐する生活資金といった労働統合型社会的企業と同様の社会的包摂を、営利企業が市場メカニズムの中で実現できることを明らかにした。また、先行研究では、社会的課題の認知がソーシャル・イノベーションの起点となっていたが、本稿の事例により必ずしも社会的課題の認知が起点ではなく、経済的課題の解決策(ビジネスモデル)がソーシャル・イノベーションに変容していくプロセスが発見された。いわば、「意図せざる創発的ソーシャル・イノベーション」の可能性が提示された。また、複合的な学びのネットワーク、すなわち実践共同体における多重成員性が社会的企業家に高齢者雇用の社会的課題を認知させ、高齢者雇用促進のソーシャル・イノベーションの創出・普及を促すプロセスが示唆された。