2023 年 20 巻 p. 1-20
本稿の目的は、自律的なキャリア意識が主観的および客観的なキャリア・サクセスに与える影響を分析することである。本稿では、日本企業1社を対象として企業内マイクロ・データと質問紙調査を結合したデータセットを使い、自律的なキャリア意識としては、Briscoe et al.(2006)が開発したプロティアン・キャリアとバウンダリーレス・キャリアを利用した。分析の結果、まず、同じ自律的キャリア意識であってもプロティアン・キャリアの下位尺度である「自己指向」は、客観的、主観的キャリア・サクセスの両方に対して正の効果、「価値優先」は客観的キャリア・サクセスに対して負の効果であった。加えて、バウンダリーレス・キャリアの「移動への選好」が主観的キャリア・サクセスに対して正の効果が確認された。「移動への選好」が客観的キャリア・サクセスに対して正の効果を持たないのに、主観的キャリア・サクセスの正の効果がある理由を議論した。移動できるという選択肢を心理的な負担を感じないで選択できるのだ、という意識が、キャリア満足度を高めている可能性が考えられる。以上の分析結果は、先行するドイツ企業の分析や日本の全国調査の分析結果とも異なる。本稿では、分析結果を比較し、結果が異なる理由を検討した。