1996 年 11 巻 4 号 p. 201-206
成人の股関節症は,関節組織の変形拘縮を特徴とし,疹痛,開排制限があって脚長差を伴った破行が見られる骨系統の疾患である。さらに当疾患は平衡機能にも支障をきたし,重心のバランス維持にも一定の困難さのあることが考えられる。今回,平衡機能を測定した股関節疾患患者に,骨盤調整(PAM)を施すことによって,脚長差,重心位置,重心動揺面積,重心ローテーション(CGR)の大きさなどの変化が,どの程度改善されるかを計測し,併せてCGRやPAMの有効性について検討した。その結果,股関節疾患患者は健常者と比べ立位・片足立ちとも動揺面積に大差は見られなかったが,CGRの軌跡の前後・左右径は約1/2ほどであり,股関節運動の支障が全身の行動範囲を狭め,円滑な重心点の軌跡が描けなかった。ところが,PAMによって脚長差,前後方向の重心位置に変化がみられ,立位・片足立ち動揺面積,CGRの左右径にも改善がみられたことから,仙腸関節が生体機構の要となり,股関節の運動に直接関与していると考えられた。さらに,股関節疾患患者がCGR運動やPAMを繰り返すことは,全身の平衡機能の向上に有効であることが示唆された。