陸水学雑誌
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川岸のタイコウチ:大和川水系における分布と生活環
岩崎 敬二
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1999 年 60 巻 4 号 p. 559-568

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抄録
奈良県内を流れる大和川水系の8河川18地点で,主に止水域に生息しているものと考えられてきた半翅目の水生昆虫タイコウチ(Laccotrephes japonensis SCOTT)の分布と生息状況を調査した。1996年から1997年にかけては2-4月おきに調査し,1997年から1998年については調査地点を4ヵ所に絞って,毎月採集を行った。その結果,1)タイコウチは,1年を通して,ヨシまたはツルヨシ群落では全く採集されなかった。2)湿性植物群落では,4月から10月の間に限って採集された。3)採集地点には大きな偏りが見られ,山間地の渓流部と,周囲が住宅・商業地である都市部では全く採集されず,周囲に田園が広がる河川に限って採集された。4)4月一5月に採集されたタイコウチは,成虫のみであったが,6月以降2齢以上の幼虫が採集されるようになり,8月・9月・10月には成虫の割合が多くなった。5)2-3齢の幼虫が採集された場所は,比較的川幅の広い河川の河川敷にできた水たまりであった。6)4齢以降の幼虫と成虫は,川幅の広さにも本流/分流/水たまりにも関係なく採集された。河川に出現するタイコウチの生息場所は主に川岸のチクゴスズメノヒエやクサヨシなどの湿性植物が水没した所であった。また,季節的な出現状況から推察して,成虫は春に河川敷の水たまり状の場所に産卵,卵はそこでふ化し,湿性植物の水没部で成長,その過程で,河川の様々な空間に分散していく可能性が示唆された。ただし,河川内においては越冬場所を確認することはできず,産卵も確認できなかった。本種が河川内で生活環を完結しているかどうかは,今後の研究課題である。
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