抄録
症例は62歳の女性で,思春期から徐々に腫大していた左乳腺腫瘍が外傷後急激に増大したため来院した.陳旧性線維腺腫に出血・感染を合併したものと診断し,単純乳房切断術を行ったが,迅速診断で扁平上皮癌と判明し,大小胸筋切除・リンパ節郭清を追加した.術後放射線療法,化学療法を行ったが, 10カ月で両側肺転移が証明され, 15カ月で死亡した.本例は巨大な線維腺腫の内外に扁平上皮癌があり,何れが原発巣であるか判断し難かった.線維腺腫内に発生する扁平上皮癌は極めて稀であること,線維腺腫の構造が保たれ,線維腺腫内には癌の中心が無いこと,線維腺腫内の癌のvolumeが小さいことなどから線維腺腫内のものは転移巣と考えた.
乳腺の扁平上皮癌の定義・発生・予後につき未だ検討の余地があることを,文献的に考察した.