抄録
稀な5多発進行大腸癌の1切除例を経験した.症例は73歳男性で,排便時の違和感を主訴に来院し,内視鏡検査により5つの多発大腸癌が発見された.開腹時に回盲部,横行結腸,下行結腸, S状結腸,上部直腸に腫瘤が触知され, 5病変とも進行癌と判断された.回盲部および上部直腸領域のリンパ節転移が疑われたため,D2郭清を,横行結腸,下行結腸の病変にはD1郭清を伴う腸管切除術を施行した.病理組織学的には深達度はS状結腸癌はmp, 他病変はssであり,回盲部病巣は1群リンパ節に転移がみられた. p53とp21の発現を検討したところ,回盲部とS状結腸病変でp53が陽性であり, p21はいずれの病変も陰性であり,各腫瘍の増殖,進展の違いが示唆された.術後7カ月目の腹部CT検査で肝転移が発見され,抗癌剤の動注療法を施行中である. 5多発進行大腸癌は稀であり,その総腫瘍量を考えると,血行性再発への対策が必要と考えられた.