1999 年 60 巻 9 号 p. 2512-2516
マムシ咬傷による出血傾向は,播種性血管内凝固症候群(DIC)に起因するものが多いが,われわれは,従来の報告とは異なる経過をたどったマムシ咬傷症例を経験したので報告する.症例は, 71歳,男性で,左第4, 5指を咬まれ,救急車にて来院した.著明に腫脹した咬傷部の減張切開を行っている最中,突然大量の吐血がみられた.緊急上部消化管内視鏡検査にて,食道上部から胃体上部にかけ多発性の出血性びらんが認められた.また,血液検査にて,血小板数が0.5万/mm3と著明に減少していたが,他の凝固系検査は正常であった.血小板数は,翌日には14万/mm3と回復した.咬傷後3日間,記憶がなくなるという意識障害もみられた.マムシ抗毒素血清の投与や対症療法により症状は軽快し,咬傷20日目に退院した.マムシ咬傷では,本症例のように非典型的経過をとることもあり,注意が必要である.