抄録
症例は68歳男性で,多発性嚢胞腎により末期腎不全にいたり,透析療法施行中に胃癌を指摘され手術を施行した.中年以降に発症する多発性嚢胞腎は常染色体優性遺伝で,両側の腎が著明に腫大嚢胞化し,末期腎不全に至る疾患である.他の原疾患と比べ尿量が保たれ,貧血も軽度なため,心不全の合併が少なく比較的予後がよいといわれる.ただし開腹術においては,腫大嚢胞化した腎が視野の妨げになるほか,嚢胞壁を損傷した場合に出血のコントロールがっかず腎摘を要することがある.また稀に術後腎破裂による腎周囲血腫や後腹膜血腫を起こしうる.本疾患では脳動脈瘤,心臓弁の異常や大腸憩室などの特有の合併症もあり周術期には注意を要する.本疾患は透析患者の約3%を占めるが,一般に透析患者では悪性腫瘍が合併しやすく特に消化管の悪性腫瘍の割合が高いため,上部下部消化管の定期的な検索が必要であると思われた.