1992 年 33 巻 8 号 p. 1077-1083
30歳,女性。妊娠27週にて破水し帝王切開術施行。術中の出血量は700 mlで輸血は施行しなかった。鉄剤を投与されたが,患者のHb値は7.8 g/dl前後にとどまり貧血は改善しなかった。第9入院病日に突然の悪寒,発熱の出現とともに一過性の白血球減少症,網状赤血球の消失がみられた。骨髄検査で赤芽球消失,巨大赤芽球の出現,ウイルス学的検査でウイルス血症,抗HPV IgM抗体を認め,急性HPV感染症と診断した。その後,貧血はHb値が6.0 g/dlまで進行したが,まもなく急速に回復した。in vitro colony形成法による検討では,急性期血清は用量依存性にBFU-E, CFU-Eを抑制したが,回復期血清では抑制がみられなかった。CFU-GMはいずれの時期の血清でも抑制は認められなかった。このことからHPVの抑制効果は赤血球系に特異的であり,HPV感染症における一過性の赤血球造血障害はHPVが原因と考えられた。しかし白血球減少症の原因は不明である。本症例は,erythropoietic stressのような特殊な条件下では,健常人においてもHPV感染症により一過性aplastic crisisが発症しうることを示している。