2016 年 57 巻 10 号 p. 1881-1889
鉄欠乏性貧血は通常,経口鉄剤の投与と鉄欠乏をきたした原因疾患への対応で治療される。多くの場合比較的容易に貧血は改善するが,時に難治性の症例を経験する。難治例となる原因は多彩であるが,内服アドヒアレンスの問題など単純なものを除くと,①鉄剤の吸収障害(萎縮性胃炎やH. pylori感染症,セリアック病など),②鉄以外の造血因子の欠乏(ビタミンB12や亜鉛),③その他の未診断貧血疾患の併存(腎性貧血や造血器疾患など),④最近明らかとなったTMPRSS6遺伝子変異による鉄剤不応性鉄欠乏性貧血などに大別することができる。本稿では,生体内鉄代謝についての基本的な説明を交えながら,経口鉄剤の効かない鉄欠乏性貧血の病態について解説する。