臨床血液
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57 巻, 10 号
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第78回日本血液学会学術集会 教育講演特集号
造血システム/造血幹細胞
1 (EL-9)
  • 中島 秀明
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1835-1844
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
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    エピゲノムとは遺伝子発現を制御するゲノム上の目印であり,メチル化・アセチル化などのヒストン修飾,DNAメチル化がそれにあたる。これらは遺伝子周辺のクロマチン構造やDNAの状態に影響を与え,遺伝子の転写を間接的に制御している。このようにエピゲノムを調節するエピジェネティックスは,個体発生や細胞の分化・増殖など生命現象の根幹に関わるものである。近年の次世代シーケンスの発展により,造血器腫瘍ではDNMT3A, TET2, ASXL1などのエピゲノム制御因子の変異が高頻度に認められ,腫瘍発生にエピゲノム異常が深く関与していることが明らかとなってきた。これらのエピゲノム制御因子の機能解析を通じて造血器腫瘍の発症・進展に関する新たな知見が次々と集積され,それらを標的とする新たな分子標的治療薬の開発が急ピッチで進められている。

2 (EL-10)
  • 新井 文用
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1845-1851
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    造血幹細胞は自己複製能と多分化能を持ち,その運命選択は,しばしば,生(自己複製)と死(分化)に例えられる。幹細胞が自己複製するのか,それとも分化するのかは,環境からの刺激によって指示されるのではなく,内在性因子によって確率論的に制御されると考えられてきた。一方で,造血幹細胞は定常状態では骨髄内の特殊な微小環境(ニッチ)に存在して静止状態を維持しているのに対し,ストレス環境下では活性化して増殖・分化を行うことで,造血の維持あるいは血球産生を行っている。このことから,生体内の微小環境(ニッチ)には,幹細胞の動態をコントロールする何らかの仕組みが存在すると考えられる。また,幹細胞の自己複製と分化は,均等・不均等分裂のバランスによって調節されており,ニッチからの環境シグナルが分裂様式に影響を与えることで,幹細胞の運命決定に関わっていることも予想される。そのため幹細胞の動態制御機構の解明には,細胞外環境シグナルの機能を1細胞レベルで明らかにすることが重要な鍵となる。

3 (EL-12)
  • 合山 進
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1852-1859
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    白血病細胞の中に幹細胞様の特殊な細胞が存在するという報告以来,「白血病幹細胞」は白血病の発症や再発の原因として約20年間にわたって注目を集めてきた。ところが最近になって,白血病幹細胞のいくつかの特性が疑問視されるようになった。まず白血病幹細胞と定義される細胞の性質は,個々の症例や実験系によって異なることがわかってきた。マウス白血病モデルを用いた研究は,白血病幹細胞が必ずしも特殊で未分化な細胞とは限らないことをはっきりと示した。さらにゲノム変異が腫瘍不均一性の原因であることが明らかになり,白血病幹細胞モデルに当てはまらない症例の存在も指摘されるようになった。しかしこれまでの研究を総合的に考えると,未分化な白血病幹細胞が多くの白血病において確かに存在し,再発や予後不良の原因となっている可能性は高いと考えられる。本稿ではこれまでの白血病幹細胞研究を振り返り,今後の課題について考察する。

4 (EL-36)
  • 村上 昌平, 本橋 ほづみ
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1860-1868
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    KEAP1-NRF2制御系は外来異物や酸化ストレスに応答して,生体防御に関わる遺伝子の発現を誘導する分子機構である。しかし,近年,同制御系は細胞増殖・分化関連遺伝子も直接制御していることが報告されている。造血細胞においては,NRF2活性化は造血幹細胞の維持や分化方向性決定に貢献し,さらに巨核球や赤血球の成熟や機能維持にも重要である。一方,免疫細胞においては,炎症性サイトカインの分泌を抑制し,免疫抑制を誘導することが知られており,すでに多発性硬化症の治療薬としてNRF2誘導剤BG-12が認可されている。一方,急性骨髄性白血病では,白血病細胞においてNRF2の転写量が増加することで,安定化したNRF2タンパク質が増加し,抗がん剤耐性の獲得に関与していることが示唆されている。ゆえに,NRF2誘導剤およびNRF2阻害剤はそれぞれ,自己免疫疾患治療や白血病治療開発の標的として期待される。

5 (EL-61)
  • 山本 卓, 坂本 尚昭
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1869-1873
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    近年,目的の遺伝子を自在改変する技術として,人工DNA切断酵素を基盤としたゲノム編集(genome editing)が注目されている。ゲノム編集は,切断された遺伝子の修復エラーを利用する技術で,これまで遺伝子改変が困難だった微生物や動植物において遺伝子の破壊や挿入が可能である。第一世代のZFNに加えて,標的配列選択の自由度が高く作製の簡便なTALENが2010年に開発され,様々なモデル生物と培養細胞での遺伝子破壊が報告されている。さらに2012年に,第三世代のゲノム編集技術としてCRISPR-Cas9が発表され,その簡便かつ効率の高さに多くの研究者が驚かされた。実際,この3年間でCRISPR-Cas9は誰もが使える技術となり,生命科学研究の進め方を大きく変えている。本稿では,CRISPR-Cas9を中心とするゲノム編集技術研究の研究動向を紹介し,医学分野での可能性について議論する。

赤血球系疾患
6 (EL-30)
  • 吉岡 祐亮, 落谷 孝広
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1874-1880
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    われわれの体内は多くの水分を含み,それら水分は血液や髄液,尿,唾液など細胞外に体液として存在している。この体液中には100 nmの膜小胞エクソソームが含まれており,エクソソームは由来する細胞の状態を反映して分泌されている。従って,がん細胞が分泌するエクソソームにはがん特異的な分子が内包されており,バイオマーカーとして利用が期待されている。しかし,エクソソームのサイズが小さすぎることや夾雑物を多く含む体液からのエクソソーム回収作業の制限などがバイオマーカー開発への障壁となっている。本稿では,新たなエクソソーム検出法の開発やがん細胞に由来する体液中のエクソソームを利用した診断法について概説する。

7 (EL-37)
  • 鈴木 隆浩
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1881-1889
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    鉄欠乏性貧血は通常,経口鉄剤の投与と鉄欠乏をきたした原因疾患への対応で治療される。多くの場合比較的容易に貧血は改善するが,時に難治性の症例を経験する。難治例となる原因は多彩であるが,内服アドヒアレンスの問題など単純なものを除くと,①鉄剤の吸収障害(萎縮性胃炎やH. pylori感染症,セリアック病など),②鉄以外の造血因子の欠乏(ビタミンB12や亜鉛),③その他の未診断貧血疾患の併存(腎性貧血や造血器疾患など),④最近明らかとなったTMPRSS6遺伝子変異による鉄剤不応性鉄欠乏性貧血などに大別することができる。本稿では,生体内鉄代謝についての基本的な説明を交えながら,経口鉄剤の効かない鉄欠乏性貧血の病態について解説する。

8 (EL-38)
  • 臼杵 憲祐
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1890-1899
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    再生不良性貧血の治療は,造血回復を目指す再生不良性貧血に特異的な治療と支持療法の2つに分けられる。支持療法には輸血,G-CSF, 鉄キレート療法などがあり,それぞれ対症的に行なわれる。造血回復を目指す再生不良性貧血に特異的な治療には,免疫抑制療法,同種造血幹細胞移植,蛋白同化ホルモン療法などがある。移植では造血能の完全な回復(治癒)が見込めるが,移植関連の合併症による死亡の危険がある。免疫抑制療法では抗胸腺細胞グロブリンとcyclosporineの併用療法が最も奏効率が高い。この治療は薬剤性や肝炎後再不貧などの二次性再不貧でも有効である。再生不良性貧血の治療では,個々の症例の重症度と年齢に応じてこれらの中から治療法を選択する。トロンボポエチン受容体作動薬のエルトロンボパグが有効であり,一部の症例では3系統の造血の回復がみられることが明らかになり,日本でも適応拡大が期待されている。

9 (EL-39)
  • 村上 良子
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1900-1907
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は後天的に1個あるいは数個の造血幹細胞のX染色体上のPIGA遺伝子に突然変異が起きて,GPI欠損細胞となり,その異常細胞クローンが増加することにより発症する。最近,PIGAの変異ではなく常染色体上の遺伝子PIGTの1つのアレルの遺伝性変異に加えてもう一方のアレルの体細胞突然変異によるPNHが見つかっている。赤血球系においてGPI欠損細胞の割合が増加すると,補体制御因子であるCD59やDAFがGPIアンカー型タンパク質で,これらの異常赤血球上では欠損しているために感染等を契機とした自己の補体の活性化により溶血発作を起こす。即ち溶血性貧血,溶血に伴う深部静脈の血栓症,しばしば併発する骨髄不全がPNHの3主徴である。異常細胞クローンの拡大はPIGAの欠損のみでは起こらず,併発する骨髄不全の環境のもと自己免疫的な攻撃を免れたPIGA欠損クローンが更なる遺伝子変異を受け増殖性を獲得すると考えている。最近の知見をもとに考察する。

10 (EL-40)
  • 大賀 正一
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1908-1912
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    先天性溶血性貧血は,赤血球の破壊が亢進し貧血に至る単一遺伝子病の一群である。赤血球構成成分の異常による赤血球膜蛋白異常症,血色素異常症および赤血球酵素異常症が三大疾患である。赤血球以外の構成蛋白異常の代表的なものには,消費性凝固障害と血管内溶血を主徴とするUpshaw-Schulman症候群と非典型溶血性尿毒症症候群がある。先天性溶血性貧血の主な症状は貧血,黄疸,脾腫および胆石だがその発症様式と重症度は多彩である。各疾患の原因遺伝子は複数存在するものが多く,その頻度や変異の種類も民族によって異なる。βグロビン鎖病には複数変異による表現型修飾効果が知られ,遺伝子診断が治療選択と長期管理に有用な情報となる。近年,診断困難な溶血性貧血症例に次世代シークエンスを用いた網羅的遺伝子解析を行い,新規原因遺伝子が同定されている。本稿では溶血性貧血の疾患概念と遺伝子診断の考え方について臨床的に概説する。

11 (EL-31)
  • Tomas GANZ
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1913-1917
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    Hepcidin is an iron-regulating peptide hormone made in the liver. It controls the delivery of iron to blood plasma from intestinal cells absorbing iron, from erythrocyte-recycling macrophages, and from iron-storing hepatocytes. Hepcidin acts by binding to and inactivating the sole cellular iron exporter, ferroportin, which delivers iron to plasma from all iron-transporting cells. In a classical endocrine feedback system, hepcidin production is stimulated by plasma iron and iron stores. Reflecting a likely role of hepcidin in innate immunity, hepcidin is also induced by inflammation. Increased erythropoietic activity suppresses hepcidin, which leads to increased iron absorption and release of iron from stores, matching iron supply to increased demand. This suppression of hepcidin is in part mediated by erythroferrone, a hormone produced by erythropoietin-stimulated erythroblasts. Hereditary hemochromatosis is caused by hepcidin deficiency or resistance to hepcidin, and hepcidin deficiency also mediates the hyperabsorption of iron in β-thalassemia and other iron-loading anemias. Pathologically increased concentrations of hepcidin are seen in iron-refractory iron deficiency anemia, in anemia of inflammation, and anemia of chronic kidney disease where increased hepcidin limits the availability of iron for erythropoiesis. Its central involvement in a variety of iron disorders makes hepcidin an important target for diagnostic and therapeutic applications.

骨髄系腫瘍:AML
12 (EL-20)
  • 麻生 範雄
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1918-1927
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病(AML)の治療は依然として化学療法と同種造血幹細胞移植による。AMLは特有の染色体および遺伝子異常によって特徴付けられる多彩な疾患である。最近の網羅的遺伝子解析は,化学療法の反応性が異なる特有の分子病型を明らかにしつつある。AMLの分子病型の解析は新規の治療法や層別化治療の開発に必須である。さらに,健常者においても年齢とともに(65歳以上では10%以上に)クローン性造血の存在が明らかにされた。また,初発のAMLと較べて骨髄異形成症候群や骨髄増殖性腫瘍から転化した二次性AMLに特異性が高い遺伝子変異として,クローン性造血の場合と同様にRNAスプライシングやエピゲノム関連分子を含む遺伝子変異が同定され,TP53変異例と同様に予後不良であった。第一寛解期における同種移植の候補となる再発の高リスクの分子病型の同定が臨床的には重要である。本稿ではAMLの層別化治療のための分子病型について考察する。

13 (EL-21)
14 (EL-22)
  • 山内 高弘
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1934-1943
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病の治療は化学療法と造血幹細胞移植を両輪として発展してきた。65歳未満における初回寛解導入率は約8割であるが,多くは再発し再寛解に到達せしめる救援療法ならびに造血細胞移植療法が重要である。再発・難反応例に対しては,強力化学療法として,シタラビン大量投与を核とするレジメンが行われる。非強力化学療法として,シタラビン少量投与,シタラビン/アクラルビシン/顆粒球コロニー刺激因子併用療法などが用いられる。一方,高齢者では全身状態良好,染色体/遺伝子予後良好例などではシタラビン通常量を主体とする若年に準じた化学療法を行う。状態不良や予後中間/不良例などでは非強力化学療法として,シタラビン少量投与,シタラビン/アクラルビシン/顆粒球コロニー刺激因子併用療法,ゲムツズマブオゾガマイシンなどが用いられ,状況に応じてbest supportive careが適応される。

骨髄系腫瘍:CML/MPN/MDS
15 (EL-11)
  • 竹中 克斗
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1944-1955
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    骨髄増殖性腫瘍myeloproliferative neoplasms (MPN)は,真性多血症,本態性血小板増多症,原発性骨髄線維症が代表的疾患であるが,MPNの分子病態は長らく不明であったが,2005年にMPNの多くの症例において,JAK2V617変異が発見され,MPNの分子病態の解明が急速に進んだ。さらに,JAK2 Exon12変異,MPLW515変異,CALR変異が発見され,BCR/ABL陰性MPNのほぼ90%の症例で,いずれかの遺伝子変異がドライバー遺伝子変異として病態形成に関わっていることが明らかとなった。さらに,これらドライバー遺伝子変異の他にも,エピゲノム制御分子やRNAスプライシング分子の変異も数多く見出されており,これら遺伝子変異の検索は,診断や予後予測に必須の検査項目となりつつある。MPNの治療は,数多くの大規模臨床試験が実施され,エビデンスが確立されてきたが,それに加えて,近年の病態解明の進歩によって,JAK2阻害剤などの新規薬剤が開発され,臨床応用が進みつつある。

16 (EL-17)
  • ―晩期副作用としての心血管障害を考える―
    高橋 直人
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1956-1961
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は慢性骨髄性白血病(CML)の予後を劇的に改善させ,今やCML患者の予後を規定する最大の要因は合併症の有無となった。これまでTKIの有害事象は可逆的でマネージメント可能と考えられてきた。ところが臨床試験の長期観察から第二世代TKIに関連した心血管障害の頻度が予想以上に高いことが明らかになってきた。本事象の発症機序は正確にはわかっていないものの,第二世代TKIの強力なABL/ARG, PDGFR, VEGFRに対する阻害作用と糖・脂質代謝異常を伴う動脈硬化が原因と考えられている。晩期副作用・合併症の予防が慢性期CMLに対するTKI治療の最大の課題になりつつあるため,長期予後に関わるTKI関連心血管障害に対しては循環器専門医と協力しながら“ABCDE step”を日常診療の中で実践しなければならない。

17 (EL-18)
  • 北中 明
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1962-1971
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の登場は慢性骨髄性白血病(CML)の治療に劇的な変化をもたらした。殆どの患者がその恩恵を享受するものの,TKI治療中に1~1.5%/年の頻度で慢性期(CP)症例が進行期(移行期(AP)または急性期(BP))へと進展する。また,新規症例の10~15%は既に進行期である。TKI時代においてもCML進行期の治療成績は不良であり,TKIが至適奏効したAP症例では良好な予後を期待できるものの,その他の症例に対する薬物療法の効果は不十分である。同種造血幹細胞移植はCML進行期に対して治癒を期待できる唯一の治療法であり,適格例に対してはTKI(±化学療法)によって再度のCPに導入した後,速やかな移植の実施が望まれる。現時点の移植成績は満足すべきものではないが,移植後のTKI投与は予後を改善する可能性がある。CML進行期症例の治療成績向上を目指した研究開発が必要である。

18 (EL-62)
  • 市川 幹
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1972-1979
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹・前駆細胞のクローン性増殖とアポトーシスによって特徴づけられ,急性骨髄性白血病(AML)に移行しやすい慢性造血不全である。MDSは造血細胞のゲノム異常によって発症する腫瘍性疾患であるが,染色体異常を手がかりとした原因遺伝子の探索が困難であったため,その原因となるゲノム異常が明らかにされてこなかった。近年広く用いられるようになった全ゲノムシークエンス解析法を含む網羅的な遺伝子解析手法が導入されることによりMDSのゲノム異常の全貌が明らかにされつつある。驚くべきことにこうした手法によって8割から9割といった極めて高い割合でMDSに遺伝子変異が認められ,その中にはこれまでに知られていなかったRNAスプライシング関連遺伝子の変異がMDSの異形成に特異的な遺伝子変異として含まれていた。こうした進歩により,MDSの病態がゲノム異常としてより詳細に明らかになりつつある。

19 (EL-63)
  • 南谷 泰仁
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1980-1990
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    本稿では,MDSの診断の進歩としてWHO分類第4版の改訂版の変更点を取り上げる。本改訂版では血球減少より異形成のみられる系統の数に重点を置いて分類する方針となり命名法もこの方針を反映したものになった。主な変化として①SF3B1遺伝子の異常が環状鉄芽球を有するタイプの診断基準に取り入れられたこと,②5q-症候群において5q-以外のリスクの低い染色体異常の存在を1つまで許容したこと,③MDS-Uの概念を命名法で整理したこと,④赤芽球が50%を超える場合の命名規則が改訂されたことなどがあげられる。また,治療法の進歩として造血幹細胞移植を取り上げる。移植適応に関して,比較的高齢の高リスク群の患者における移植とDNAメチル化阻害剤との成績の比較を行った研究の結果や,移植前処置の強度に関する前向き研究の暫定結果が発表された。ここでは,それらの成績を発表する。

リンパ系腫瘍:ALL/悪性リンパ腫
20 (EL-5)
  • 富田 直人
    2016 年 57 巻 10 号 p. 1991-1999
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/07
    ジャーナル 認証あり

    びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)は全悪性リンパ腫の中で30~40%を占める。DLBCLはその半数以上がリンパ節外に発症したと考えられるいわゆる節外性DLBCLであるが,概してその予後は節性DLBCLと変わらない。本稿では節外性DLBCLの定義や細胞起源,各節外臓器への浸潤の有無が予後に及ぼす影響について総論で述べる。各論ではDLBCLの標準的治療とされるR-CHOP療法では不十分と考えられる節外性DLBCLについて現時点での病態・治療に関する知見を紹介する。中枢神経原発あるいは精巣原発リンパ腫の大部分はDLBCLであり,縦隔原発大細胞型B細胞リンパ腫や血管内大細胞型B細胞リンパ腫は定義上DLBCLの亜型である。また,中枢神経浸潤のリスクとなる節外病変についても解説する。

21 (EL-6)
  • 鈴木 律朗
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2000-2007
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    有効な抗腫瘍薬物の発見と多剤併用化学療法の進歩により,悪性リンパ腫の治療成績は向上してきた。しかしながらT細胞リンパ腫の予後は,B細胞リンパ腫のそれより不良で,進歩も少ない。理由の1つは有効な抗体製剤が見い出されてきていないことである。WHO分類2008年版では21の成熟T細胞リンパ腫病型が記載されていたが,2016年版で29に増加した。T細胞リンパ腫がヘテロであることを物語っているが,予後の視点からはALK陽性未分化大細胞型リンパ腫とその他に大別される。前者は基本的に予後良好で,標準治療であるCHOP療法で満足できる治療成績が得られる。一方で後者,その他の病型の予後は不良で,P糖タンパク抵抗性アントラサイクリン,エトポシド,造血幹細胞移植などが考慮されているが,確立された治療法がないのが現状である。再発・難治のT細胞リンパ腫に対しては,多くの新薬が開発途上である。新規治療法を含めた今後の成績向上が期待される。

22 (EL-7)
  • ―診断と効果判定のupdate―
    寺内 隆司
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2008-2012
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    本論文では,悪性リンパ腫の病期診断と効果判定に対する新規準であるLugano分類に則して,悪性リンパ腫におけるFDG-PET/CTの現状と問題点について述べる。Lugano分類では,FDGがよく集積する(FDG-avid)組織亜型に対してはFDG-PET/CTを標準的な検査とすると規定している。FDG-avidの組織亜型の定義も以前よりも拡大され,ほとんどの組織亜型がFDG-avidとされている。病期診断において,FDG集積亢進が認められれば,大きさや形態によらずリンパ腫病変と診断する。FDG集積病変は生検の至適標的病変にもなり得る。びまん性大細胞性B細胞性リンパ腫やホジキンリンパ腫では,FDG-PET/CTにて骨髄病変が指摘された場合の骨髄生検は不要とされている。FDG-PET/CTは治療効果判定のよい指標にもなり,その際は5 point scaleを用いて判定する。寛解が得られた場合には,経過観察のための定期画像検査は不要としている。治療中に実施されるinterim PETは,予後予測因子としての有用性が注目されており,層別化治療への応用が期待されている。

23 (EL-25)
  • ―現在の標準治療と今後の展望―
    大間知 謙
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2013-2021
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)の現在の標準治療はR-CHOP (rituximab, cyclophosphamide, doxorubicin, vincristine, prednisone)療法である。これは2000年代初めに報告された,60~80歳までの未治療進行期DLBCL患者を対象としたCHOP療法とR-CHOP療法の比較試験において,R-CHOP療法群の生存が約20%上回ったことから始まる。近年の抗体療法や分子標的療法の発展は著しく,悪性リンパ腫に対しても有望な新規薬剤が多数臨床応用されるようになってきている。その一方でDLBCLの標準治療は15年以上更新されていない。本稿では,どのような検討が行われてきて今日があるのか,そこから今後何を考える必要があるのかを考察する。

24 (EL-27)
  • 犬飼 岳史
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2022-2028
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    急性リンパ性白血病(ALL)の予後は多剤併用による化学療法によって大きく向上した。しかし,Philadelphia染色体陽性ALLにおけるtyrosine kinase inhibitorの有効性から明らかなように,通常の化学療法においても各症例の薬剤感受性を適切に評価することが,さらなる治療成績の向上には必要である。近年,遺伝子多型の意義を評価するgenome-wide association studyや,遺伝子変異を網羅的に評価する次世代シークエンサー解析などの技術革新によって,各薬剤の感受性に関連する遺伝子における一塩基多型(single nucleotide polymorphism, SNP)や変異の関与が明らかになりつつある。こうしたALLの薬剤耐性に関する最近の知見を踏まえて,多数の細胞株を用いたわれわれの解析結果についても紹介する。

25 (EL-41)
  • ―TAFRO症候群の診断基準・重症度分類・治療指針―
    正木 康史, 川端 浩, 高井 和江, 塚本 憲史, 藤本 信乃, 石垣 靖人, 黒瀬 望, 小島 勝, 中村 栄男, 木下 朝博, 青木 ...
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2029-2037
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    2010年に提唱されたTAFRO症候群は,thrombocytopenia;血小板減少,anasarca;全身浮腫・胸腹水,fever;発熱,reticulin fibrosis;骨髄のレチクリン線維症と巨核球の増勢,organomegaly;肝脾腫やリンパ節腫大などの臓器腫大からなる造語である。本症のリンパ組織病理像はCastleman病と類似するが,典型的な多中心性Castleman病とは臨床像が異なる。TAFRO症候群ではガンマグロブリン増加は軽度で,リンパ節は小さく,亜急性に発症し進行性の経過をたどる。TAFRO症候群は致死的な経過をとる例もあるが,早期からの治療による有効例も報告され,診断基準と治療指針の確立が急務である。厚労省研究班にて議論を重ね,平成27年度に本疾患の診断基準,重症度分類,治療指針を策定したので概説する。

26 (SEL-28)
  • Sabina CHIARETTI, Robin FOÀ
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2038-2048
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    For decades, Philadelphia-positive acute lymphoblastic leukemia (Ph+ ALL) has been considered the ALL subgroup with the worse outcome. It represents the most frequent genetic subtype of adult ALL and, in the elderly, it accounts for approximately 50% of cases. The introduction of tyrosine kinase inhibitors (TKIs) has led to obtain complete hematologic remissions (CHR) in virtually all patients, to improve disease-free survival and overall survival, and to increase the percentage of patients who can undergo an allogeneic stem cell transplant (allo-SCT). Thus, the current management of adult Ph+ ALL patients is based on the use of a TKI, with or without systemic chemotherapy, followed by an allo-SCT, which still remains the only curative option. Monitoring of minimal residual disease allowed a better stratification of patients, and also enabled to redefine the role of autologous stem cell transplant for patients who do not have a donor or are unfit for an allo-transplant. The main clinical challenges are today represented by the emergence of resistant mutations, particularly the gatekeeper T315I, for which alternative approaches, including novel TKIs and/or therapies based on the combination of TKI with immunotherapeutic strategies, are being considered.

27 (EL-42)
  • Vishwanath SATHYANARAYANAN, Fredrick HAGEMEISTER
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2049-2053
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    Many patients with Hodgkin lymphoma (HL) can be cured with standard chemotherapy with high long term survival rates1). Considering the increased risks of various toxicities following therapy, options are evolving towards avoidance of radiation and reduction of therapy duration, with results similar to those currently achieved with improved quality of life2, 3). However, 20-30% of patients still develop recurrence during or following initial therapy, depending upon what chemotherapy regimen is administered4). Investigators have recently described new agents that have produced significant responses in this latter group of patients. In this report, we describe some of these studies, with an emphasis on response and tolerability.

28 (SEL-44)
29 (SEL-32)
  • Rebecca PORTER, Nancy BERLINER
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2059-2063
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    Hemophagocytic lymphohistiocytosis (HLH) is a rare life-threatening syndrome of uncontrolled immune activation. It was initially recognized in children, where it occurs primarily as an inherited syndrome related to homozygous null mutations in immune response genes involved in cytotoxic T cell and NK cell function. A minority of pediatric patients develop “secondary” HLH as a consequence of infection or autoimmune disease. In the last 10-15 years, secondary HLH has been increasingly recognized in adults, where it is frequently associated with lymphoid malignancy, infection, or autoimmune disease. This relatively recently recognized diagnosis and the treatment of adult HLH have been largely shaped by observations in pediatric patients. In this brief summary, we focus on the features that distinguish pediatric from adult HLH and discuss the challenges of diagnosis and treatment of this devastating disease.

リンパ系腫瘍:多発性骨髄腫
30 (EL-1)
  • 角南 一貴
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2064-2073
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫の自家造血幹細胞移植(autologous stem cell transplantation, ASCT)は若年者において従来の化学療法より優れる治療法として認識され,標準療法として確立されてきた。2000年代に入り,新規薬剤(thalidomide, bortezomib, lenalidomide)が臨床で使用可能となり,それらを移植前寛解導入療法,移植前処置,移植後地固め・維持療法に組み込んだ臨床試験が様々報告され,従来と比べ治療成績がさらに向上しつつある。今後,新規薬剤を用いた治療戦略の変化により,完全奏効割合の改善や無増悪生存期間,全生存期間の延長が期待されている。本稿では我が国におけるASCT適応患者の至適治療戦略について述べる。

31 (EL-2)
  • 田村 秀人
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2074-2083
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    未治療移植非適応の骨髄腫患者に対する標準治療は,1990年代までの長期に渡り,メルファランとプレドニゾロンを併用したMP療法であったが,近年ではMPとプロテアソーム阻害薬ボルテゾミブを併用したMPB療法,MPに免疫調節薬サリドマイドを併用したMPT療法,サリドマイド誘導体であるレナリドミドと低用量デキサメタゾンを併用したLd療法,あるいはMPとの併用であるMPL療法などが推奨されており,MPB, Ld, MPL療法の全奏効率は約70%と報告されている。高齢者においても完全奏効に到達した患者では全生存期間や無病生存期間が有意に良好なことから,高い完全奏効率をもたらすMPB療法は最も適した初期治療法と考えられる。しかし,高齢者,特に75歳以上,脆弱な患者,合併症を有する患者に対する治療においては,効果と毒性のバランス,生活の質を維持することが重要である。さらに,継続治療が長期生存をもたらすことが報告されている。

32 (EL-3)
  • 佐々木 純
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2084-2095
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    新規薬剤の登場により,ここ10年での日本における多発性骨髄腫の治療成績は著しく向上した。しかしながらこの疾患では,たとえ深い長期の奏効を得たとしてもほとんどの症例が再発する。昨年,pomalidomideとpanobinostatがこれら再発・難治例への救援療法に認可された。しかし,長期間の化学療法は薬剤耐性のメカニズムであるintraclonal heterogeneityやclonal evolutionにより耐性クローンを生み出し,次第にコントロール不能となる。いくつもの研究グループからこれらに対する治療の推奨が発表されているが,定まった治療法はない。それは再発時の患者の状態は個々で異なり,このマネジメントにはそれぞれの患者の状態,―患者,疾患そして治療に関連する要因―に基づいたアプローチが必要だからである。このうち特に重要なのは患者要因である。近い将来,本邦でも新たな抗体療法剤(daratumumabなど),次世代プロテアソーム阻害剤(carfilzomibなど)の登場が約束され,これらによりさらに治療成績を改善されることが期待される。

33 (EL-33)
  • 山崎 悦子
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2096-2103
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫(MM)の診断は長らくInternational Myeloma Working Group 2003年版に則って行われてきた。2014年に新たに提唱された診断基準では,骨髄腫診断事象としてこれまでのCRAB(高カルシウム血症,腎不全,貧血,骨病変)に加え,新たなバイオマーカーが加わった。すなわち,①骨髄中単クローン性形質細胞≥60%;②血清遊離軽鎖(FLC)比(腫瘍性/非腫瘍性)≥100;③MRIで同定される骨局所病変>1, である。無症候性骨髄腫(SMM)と診断された症例のうち,これらのバイオマーカーをもつ症例は2年以内に症候性骨髄腫へ進行する危険性が70%以上であったことに基づく。2014年版診断基準においては,超高リスクSMMがMMとして診断されるようになり,以前よりも早期に治療介入が行われることになる。MM診断時に必要とされる検査も診断基準と共に変化しており,併せて解説を行う。

34 (EL-35)
  • ―QoLの改善に向けた治療の進歩―
    安倍 正博
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2104-2112
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    新規薬が臨床応用され骨髄腫の治療成績が大きく向上している。治療が奏効すると貧血や腎障害などの骨髄腫の合併症の多くは改善するが,新規薬の時代になっても骨破壊病変は依然として生活の質(QoL)の低下の最も多い原因である。今後さらなる長期生存が期待できるが,QoLの維持,改善のためには骨破壊病変の進行防止だけでなく,骨喪失部に骨を再生させる治療の開発が求められている。本稿では,骨髄腫骨病変に対する治療の現状と問題点,そして骨病変の病態解明の進歩に伴う新規骨病変治療薬の開発状況などを中心に概説する。

血栓/止血/血管
35 (EL-13)
  • 松井 太衛, 濵子 二治
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2113-2123
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    von Willebrand因子(VWF)は,出血部位において血小板を粘着・凝集させ,血小板血栓を形成させる接着分子としての機能と凝固第VIII因子(FVIII)と結合し,これを保護する機能を担っている。VWFは270 kDaのサブユニットが多数重合した鎖状構造をしており,サブユニット内にはFVIII, 血小板,コラーゲンなどに対する結合ドメインが並んでいる。このような多価のマルチマー分子であるVWFのユニークな生合成経路や貯留,分泌,切断酵素ADAMTS13による活性の制御機構などが近年明らかにされてきた。VWFの量的または質的異常に起因するvon Willebrand病(VWD)は,1926年に発見された常染色体遺伝性の出血性疾患である。90年を経て,様々なVWFの臨床検査や,アミノ酸変異(遺伝子変異)に伴う構造-機能相関研究を基にVWDの病型分類と分子病態が明らかにされてきた。マルチ機能ドメインを持つ巨大分子であるVWFは,血流中で物理的なずり応力を受けながらその止血機能が動的に制御される極めてユニークな分子である。

36 (EL-14)
  • 宮田 茂樹
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2124-2135
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)では,heparin投与で誘導される血小板活性化能を持つHIT抗体が主因となり,血栓塞栓症を高率に発症する。近年heparin投与なしに自己免疫疾患として発症するspontaneous HIT syndromeが注目され,発症メカニズムの理解は,以下のHIT免疫学的特異性の理解につながる。Heparin初回投与でも,二次免疫応答のようにHIT IgGが投与開始後4日目から産生される。Heparin再投与の際のanamnestic responseを欠く。二次免疫応答と異なり比較的早くHIT抗体は消失する。一般的な免疫測定法は,特異度が低く,過剰診断を招き患者予後を増悪させ得る。血小板活性化能を測定する機能的測定法がHIT診断に重要である。HITの特異性を理解した適切な診断に基づいた治療が患者予後改善に重要であり,臨床的にHIT疑った時点で,直ちに抗thrombin剤投与を開始する。HIT抗体が陰性化した患者では一時的なheparinの再投与が可能である。

37 (EL-15)
  • 池添 隆之
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2136-2144
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    造血器腫瘍に合併する播種性血管内血液凝固症候群(DIC)では,造血障害による血小板減少と消費性の止血因子の欠乏に加え,線溶系の著しい亢進により重篤な出血症状をしばしば認める。抗がん剤治開始直後の腫瘍崩壊に伴いDICが悪化することも造血器腫瘍に合併するDICの特徴であり,その管理には注意を要する。造血器腫瘍に合併するDICの診断には旧厚生省DIC診断基準が使用されるが,感度面で問題視する意見もあり,2014年に日本血栓止血学会から新基準暫定案が発表された。可溶性フィブリンなどの凝固活性化分子マーカーを取り入れたことで感度,特異度ともに改善が期待される。遺伝子組換えトロンボモジュリン製剤(rTM)は第III相臨床試験結果から有効性および出血等の安全性の面で未分画ヘパリンに対して優れていることが証明され2008年より臨床使用可能となった。rTMは抗炎症作用と血管内皮細胞保護作用を併せ持ち,DIC患者の生命予後の改善に期待が寄せられている。

38 (EL-16)
  • 宮川 義隆
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2145-2150
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    最近,医師主導治験が注目されている。しかしながら経験者は少なく,情報不足である。2002年の薬事法改正により,医師が自分で新薬の開発をできるようになったが,成功例は少ない。製薬企業と異なり,開発経験に乏しい医師が単独で事業で行うのは難しく,経験者の助言と開発業務受託機関(CRO)の支援が必要となる。本稿では,特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)に対する抗体医薬リツキシマブの医師主導治験を通じて学んだことを紹介する。これから医師主導治験に取り組む研究者の参考になれば,幸いである。

39 (EL-45)
  • 関 義信
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2151-2158
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    血栓止血領域を専門としない血液内科医が日常診療で知っておくとよい血栓止血系検査の選択方法と解釈の仕方を概説する。出血傾向のスクリーニング検査としては,出血時間,毛細血管抵抗試験,血小板数,プロトロンビン時間,活性化部分トロンボプラスチン時間,フィブリノゲン,フィブリン/フィブリノゲン分解産物,APTTクロスミキシングテストなどがある。血栓症・血栓性素因を疑う患者のスクリーニング検査としては,FDP, Dダイマー,トロンビン-アンチトロンビン複合体が頻用される。血栓性素因に関しては,アンチトロンビン,プロテインC, プロテインS, 抗リン脂質抗体,ヘパリン起因性血小板減少症抗体などを検査する。先天性の血栓性素因を疑った場合は,頻度の問題から通常AT, PC, PS, プラスミノゲン,フィブリノゲンなどの活性値を測定する。必要に応じて抗原量の検査も進めていく。因子欠乏,インヒビターの鑑別は交差混合試験で行う。

40 (EL-46)
  • ―まれな出血傾向を見逃さないために―
    加藤 恒
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2159-2168
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    先天的な遺伝子異常による止血機能異常症の中でも血小板機能異常が原因となるものは比較的頻度が低い。出血は血小板機能異常以外の様々な原因でも起こる非特異的な症状であり,症状が軽度の場合は血小板凝集検査などに進むべきかの判断がつかないまま血小板機能異常症の診断に至っていない症例も多数あると思われる。血小板はその数のみでなく,正常に機能することが病的血栓の形成や出血症状を起こすことなく止血を行うために必須であるが,簡便な血小板機能評価法がないため日常診療の中で血小板機能について意識されることは少ないことが問題である。速やかな血栓形成のために血小板の活性化状態は厳密な制御のもとに効率よく増幅していくが,この活性化過程の様々な異常が血小板機能異常症につながるため,血小板活性化機構の理解に基づいた病態の把握から適切な評価を行うことで診断を進めていくことが重要である。

造血幹細胞移植
41 (EL-50)
42 (EL-51)
  • 村田 誠
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2176-2182
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    同種造血幹細胞移植後の急性GVHDは一般にgrade II以上が治療適応となる。標準一次治療はメチルプレドニゾロン2 mg/kgであるが,軽症例に限って0.5~1.0 mg/kgも経験的に投与されている。それらの有効率はドナーとの組み合わせによって異なり40~70%程度である。一次治療開始5日後にGVHDの改善がみられない場合,もしくは3日後の時点で増悪がみられた場合には,二次治療を考慮する。ただし本邦では選択できる薬剤が少ないこともあり,一次治療開始2~3週後に二次治療開始の判断を行うこともある。標準二次治療は確立されていない。本邦では抗胸腺細胞グロブリン製剤と間葉系幹細胞製剤が,急性GVHDに対する治療薬として保険承認を得ている。GVHD治療法に関する新しいエビデンスの発信が期待されている。

43 (EL-53)
  • 松岡 雅雄
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2183-2189
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    ヒトT細胞白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1, HTLV-1)は感染細胞を介して感染し,生体内では感染細胞を増やすという戦略を取っている。生体内でHTLV-1は特殊なCD4陽性細胞に感染しており,コードするウイルス遺伝子によりウイルス複製,感染細胞の増殖だけでなく宿主免疫監視機構からも逃避している。感染細胞は,組織に浸潤しやすく母乳・精液を介して次の感染を引き起こす。HTLV-1 bZIP factor (HBZ)発現細胞はインターフェロンガンマの過剰産生から炎症を引き起こし,発がんにも繋がっている。このようなHTLV-1にとっては合理的な戦略により感染細胞が増加することが炎症性疾患や成人T細胞白血病を引き起こすものと考えられる。

44 (EL-54)
  • ―造血幹細胞移植療法を中心に―
    宇都宮 與
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2190-2198
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    ATL患者に対する同種造血幹細胞移植療法は,HLA一致の血縁者間移植や非血縁移植では30~40%の長期生存が得られている。55歳以下では骨髄破壊的前処置,50~70歳では骨髄非破壊的前処置が用いられるが,両者で生存率の差はない。化学療法に感受性のある時期での臍帯血移植は,骨髄や末梢血の治療成績に劣っていない。移植においての予後因子として年齢,性別,一般状態,寛解状態,sIL-2受容体値が同定されている。軽度の急性GVHDの発症は,生存期間の延長と関連している。移植後の再発において免疫抑制剤の中止やドナーリンパ球輸注で再寛解が得られる例があり,この現象はgraft-versus-ATL効果と考えられる。HTLV-1キャリアドナーからの移植では,まれではあるがドナー細胞由来のATL発症が報告されている。Mogamulizumabは制御性T細胞も減少させるので,同種移植前の使用は注意を要する。

45 (EL-56)
  • 矢部 普正
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2199-2207
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    同種造血細胞移植の対象となる遺伝性疾患には,Fanconi貧血やDiamond-Blackfan貧血に代表される遺伝性骨髄不全症候群,副腎白質ジストロフィーやムコ多糖症等の先天代謝異常,X連鎖重症複合免疫不全に代表される原発性免疫不全などが含まれる。これらの疾患においては重症度・病期の評価やドナーとの適合性を含めて移植の適応を慎重に判断する必要があるが,特に先天代謝異常においては精神発達遅延の改善が期待できるかが重要とされる。また遺伝性骨髄不全症候群や原発性免疫不全においては,当該遺伝子にコードされた分子の発現が造血細胞にとどまらず,全身諸臓器に及ぶために組織脆弱性,先天奇形,二次発がんなどの問題を抱えることがあり,前処置毒性の軽減や慢性GVHDの予防,治療など移植方法に特別の配慮が必要である。

46 (EL-64)
  • 森 有紀
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2208-2217
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    侵襲性真菌症(invasive fungal infections, IFIs)は,同種造血幹細胞移植後の重要な合併症の1つである。高度の免疫抑制状態においては,一旦発症すると治療に難渋し,致死的経過をたどることも多いため,その予防対策に重点が置かれている。移植後早期は,防護環境とカンジダを主標的とした抗真菌薬の組み合わせ,中後期はアスペルギルスを主標的とした抗糸状菌薬による予防が行われてきたが,移植医療の著しい進歩に伴い,IFIsのリスクは多様化し,かつ複雑化している。従って,患者毎に,宿主要因や環境要因から想定されるIFIsのリスクを正確に評価すると共に,移植後の状況変化を経時的に把握し,その時々で最適と思われる予防対策を取捨選択するといった臨機応変な対応が望まれる。また,予防的抗真菌薬の選択にあたっては,各薬剤の特性を十分に理解し,有効性と毒性のバランスをとることが重要である。

47 (SEL-52)
  • 峯石 真
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2218-2223
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    急性白血病の治療法は急速に進歩しつつある。特にここ10年は分子標的療法や細胞治療,遺伝子治療などの発展と相まって,急性白血病の治療における移植療法の役割が問い直されてきている。筆者は,これらの新しい治療法は移植療法の役割を小さくするどころか,移植療法の重要さをさらに増すものと考えている。移植療法とこれらの新しい治療法とを組み合わせることによって,白血病の治療はさらに進歩していくはずである。この新しい時代において,移植・血液医は従来の領域にとらわれることなく,新しい薬剤や治療法とGVHD/GVLの相互作用などの新しい分野の研究を進めるべきである。移植法自体や前処置も包括的治療の変化に伴い進化していくべきものである。

免疫・細胞・遺伝子治療/輸血
48 (EL-23)
  • 波多江 龍亮, 茶本 健司
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2224-2231
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    世界に先駆けて2014年に本邦で製造販売が承認されたprogrammed cell death-1 (PD-1)抗体nivolumabをはじめとする免疫チェックポイント阻害剤の登場でがん免疫療法は飛躍的に発展した。本邦でも既に悪性黒色腫と非小細胞肺がんに対し保険適用が認められており,がんに対する治療戦略が大きく変わりつつある。免疫チェックポイント阻害剤はがん細胞ではなくリンパ球を標的とし活性化を促す。活性化したリンパ球は,遺伝子変異由来の変異蛋白を含む様々ながん抗原に対する免疫応答を引きおこすため,がんが遺伝子変異を起こしても抗腫瘍効果が長期間持続することが特徴である。さらに,免疫チェックポイント阻害剤は従来の化学療法と比較して副作用が少なく有効な成績をあげている。本稿ではPD-1を標的とした免疫チェックポイント阻害療法の臨床成績と投与に際して必要と思われる現時点での問題点を論じる。

49 (EL-29)
  • 牧野 茂義
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2232-2240
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    「安全で適正な輸血療法」を実施するためには,まず,輸血用血液製剤それ自体の安全性の確保と安定供給が必要条件である。そのためには日本赤十字社における様々な安全対策と健全な献血制度の維持が重要である。その上で輸血実施施設における院内輸血管理および実施体制の整備を行い,輸血に伴う有害事象に対する対策を確立しておく。特に過誤輸血防止の体制作りは必須である。輸血の適応に関しては,「血液製剤の使用指針」に沿って決定する。適正輸血の実施を心がけ,不必要な輸血は避ける。これらの条件が不十分だと安心して血液疾患の治療ができない。実際の日常診療において血液疾患治療時の支持療法である輸血療法の要点,特に各血液製剤の適応や禁忌事項,使用時のトリガー値,および輸血速度などの投与時の注意事項について言及する。

50 (EL-49)
  • 赤塚 美樹
    2016 年 57 巻 10 号 p. 2241-2249
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/10/28
    ジャーナル 認証あり

    遺伝子改変T細胞を用いた養子免疫療法はさまざまな悪性腫瘍に対する新規で有望な治療法である。その手法は特異性が明らかなT細胞受容体やキメラ受容体をT細胞に導入して武装させることにある。後者のキメラ受容体は抗体やリガンドの細胞外部分と細胞内のシグナル伝達ドメインの人工合成分子から成っている。これらの受容体分子はさらに親和性を高めることができるほか,新たな機能をもたせることも可能である。養子免疫療法の成功に裏には同種造血幹細胞移植で培われた知見が多分に応用されている。ここでは同種移植と比較しながら,遺伝子改変T細胞療法の歴史的変革を考えるとともに,この強力な治療法のさらなる発展や改良についても述べたい。

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