臨床血液
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Symposium 9
乳児白血病の発症過程
江口 真理子
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2021 年 62 巻 7 号 p. 809-819

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抄録

乳児期の急性リンパ性白血病(ALL)は未だ治療抵抗性の白血病であり,長期予後の改善も十分ではない。乳児期のALLは染色体11q23領域の転座を有することが多く,11q23領域に存在するMLLKMT2A)遺伝子の再構成と融合遺伝子形成が認められる。多数の遺伝子が転座によりMLLと融合するが,特に染色体4q21に存在するAF4AFF1)遺伝子との融合で形成されるMLL-AF4KMT2A-AFF1)融合遺伝子は乳児ALLに特徴的な予後不良因子である。MLL-AF4陽性の乳児ALLでは初期の白血病細胞は胎生期に生じている。多くの白血病モデルの解析からMLL-AF4による腫瘍化の標的細胞はMLL-AF9KMT2A-MLLT3)やMLL-ENLKMT2A-MLLT1)とは異なり骨髄の造血前駆細胞ではなく,胎生期の胎児肝などに存在する初期の造血前駆細胞である可能性が指摘されている。またさらに未分化な,造血細胞分化に方向付けされる前の中胚葉細胞が標的となっている可能性もある。MLL-AF4による乳児ALLの発症過程を解明することで,予後不良な乳児ALLの発症前診断や発症予防につながる可能性もあり,今後の研究の進展が望まれる。

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© 2021 一般社団法人 日本血液学会
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