2022 年 63 巻 6 号 p. 561-572
エピジェネティクス制御因子であるASXL1の変異は,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome, MDS)や急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)を含む骨髄系腫瘍で高頻度に見出される予後不良の変異である。大部分の症例でASXL1変異は他の変異と共存していることから,その変異単独では発症に不十分であり,複数の遺伝子変異による協調的な腫瘍発症機構の存在が示唆される。また,ASXL1変異は加齢に伴うクローン性造血(clonal hematopoiesis, CH)においても同定され,造血器腫瘍の発症リスクを上昇させることが明らかとなっている。したがって,ASXL1変異は腫瘍の発症プロセスにおいて,最も早期に起こる変異の一つであると考えられる。本稿では,ASXL1変異による造血器腫瘍の発症機構について,筆者の研究から得られた知見を交えて概説する。