2022 年 14 巻 p. 243-255
多くのスポーツ選手が試合前には不安を感じるにも関わらず,その不安にどのように対処しているかに焦点を当てた研究はこれまであまりなされていない.そこで本研究は,練習期から試合当日までの不安の変化に焦点を当て,全国トップレベルの大学生選手が不安にどのように対処して試合に臨んでいるのかを明らかにすることを目的とした.対象者は,これまで試合で実力発揮をしてきたと考えられる全国トップレベルの大学生剣道選手2 名とした.スポーツ場面に特有な不安の変化について測定したほか,不安の変化に伴う行動と思考を分析するために,稽古日誌の記入を求めた.その結果,対象者1 は不安を感じやすいタイプであることが示されたほか,試合前には最大で10 日前から不安を感じていたのに対し,対象者2 は調査期間全体を通して不安を感じていなかった.このように,両者の不安は相反していたが,両者は調査期間中に行われた試合において共通して実力を発揮することが出来ていた.そして不安への対処法については,両者の日誌における相違点より,対象者1 はあえて練習において出来なかった点に焦点を当てることで,試合に向けての入念な準備を可能にし,その結果としてモチベーションを高めることで実力発揮につなげていた可能性が明らかとなった.つまり,不安を減らすことよりも,不安がパフォーマンスに良い影響を及ぼすように,うまく活用していくことが重要であると考えられる.