2023 年 15 巻 p. 206-223
本研究の目的は,熟練競技者が競技人生において「どん底」に至った心理的・行動的特徴を明らかすることであった.社会人として3 年以上陸上競技を継続した10 名の選手を対象とし,我々は半構造化面接法によるインタビュー調査を実施した.調査後,「どん底」を学生時代に経験した事例と社会人時代に経験した事例に分類し,KJ 法を用いて分析した.その結果,学生時代にどん底を経験していた全ての事例に【受動性(指導者への依存)】と[拠り所の不在]が確認され,その他に【やるべきことの不明瞭】,【結果が出ない】,【心身の負担】,【環境の変化】が特徴として確認された.社会人時代の事例からは,【心身の負担】,【デュアルキャリア困難】,【結果が出ない】,【やるべきことの不明瞭】における[専門的知識不足]が特徴として確認された.特に[加齢による身体的変化],[心理的消耗],および【デュアルキャリア困難】は社会人時代の事例にのみ,確認された.今後,量的な調査の必要はあるが,競技を長期に継続する選手に対してはこれらの特徴を踏まえたサポートや対策の必要性が示唆された.