スポーツパフォーマンス研究
Online ISSN : 2187-1787
15 巻
選択された号の論文の35件中1~35を表示しています
  • 「前回り受身練習用シート」による支援の有効性
    小崎 亮輔, 小澤 雄二
    2023 年 15 巻 p. 412-425
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    本研究では,発達障害や知的障害を有する児童及び生徒を対象に,柔道の基礎的な技能である前回り受身の効果的な習得方法を検討した.知的障害児及び発達障害児は運動が苦手であるケースが多いことから,視覚的支援を導入するために「前回り受身練習用シート」が使用された.本研究の被験者は,放課後等デイサービスに通う18 名の児童及び生徒であった.被験者の多くはASD やADHD などの発達障害,または知的障害を有していた.本研究ではまずプレテストを実施して,被験者の前回り受身の習得度を測った.習得度の評価については「『前回り受け身』のできばえ採点表」が使用された.その後,「前回り受身練習用シート」を使用した約2 ヶ月間の練習期間を設けた.練習期間後,ポストテストを実施して再度前回り受身の習得度を測定した.その結果,被験者の多くは前回り受身の習得度(「前回り受け身のできばえ採点表」による得点)が上昇したことが明らかとなった.以上より,「前回り受身練習用シート」を使用した視覚的支援が前回り受身の習得に有効であることが示唆された.
  • 登山とランニングの併用案
    吉塚 一典, 濱田 臣二, 大山 泰史, 末永 貴久
    2023 年 15 巻 p. 401-411
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/12
    ジャーナル オープンアクセス
    筆者らは「登りたい山に必要な体力水準」と「登山者自身の体力水準」のミスマッチを防ぐ方法として,登山前の事前トレーニングを登山とランニングを併用して行う場合についてポイント化し,登山の体力的な準備度を把握する方法(換算式)を考案した.さらに,考案した換算式の有用性や課題を検証するため,登山愛好者3 名を対象に剱岳への実証登山を試行した.剱岳の登頂に必要な体力は5900 ポイント(コース定数× 100)と換算した.被験者3 名には,2 ヶ月間の事前トレーニングで登山とランニングのポイントが各2950 で合算5900 獲得できることを目標に実施させた.事前トレーニングにおける目標ポイントの達成率は83.6 ~ 104% であった.その結果,事前トレーニング前後の体重あたりの膝関節伸展筋力は各被験者とも10 ~ 17%増加した.また,実証登山においても,転倒などの事故もなく,剱岳登頂と立山縦走を標準タイムの2/3 ~ 3/4 の時間で踏破でき,登山後の筋硬度や筋肉痛も軽微で,局所的,全身的疲労度も小さかった.これらのことから,今回提案した登山の体力的な準備度を把握する方法(換算式)は,安全な登山を支援する可能性がある.
  • 小畠 翼, 林 容市, 高見 京太
    2023 年 15 巻 p. 388-400
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,中学生年代の陸上競技の中・長距離種目の競技者を対象に,3000 m 走Time Trial(以下,TT)に向けた7 日間のテーパリングを実施し,テーパリング開始から4 日目または6 日目というタイミングで1000 m走の刺激練習を実施した場合の3000 m走タイムおよび心理的な疲労の変化を比較した.刺激練習を3000 m 走の自己最高タイムの110%の強度で実施した結果,テーパリング期間の4 日目または6 日目に刺激練習を行っても,その後に実施した3000 m 走TT タイムには有意な差異は認められなかった.また,テーパリング期間の4 日目または6 日目に刺激練習を行っても気分プロフィール検査(POMS2)で測定した3000 m 走TT 当日の疲労尺度の得点が,テーパリング初日と比較して,有意に小さい値を示していた.これらから,中学生年代の競技者が,7 日間のテーパリングの中で4 日目または6 日目に刺激練習を行っても,TT 実施日には心理的な疲労度に差がなく,走パフォーマンスを維持できる可能性が示唆された.そのため,個人の疲労度などに応じて刺激練習の実施タイミングを柔軟に決定する必要性が示唆された.
  • 足音の周波数解析による接地・離地の検出
    田村 孝洋, 松田 亮, 萩尾 耕太郎
    2023 年 15 巻 p. 377-387
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/07
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,ランニングの支持時間(接地・離地)を正確に測定するため,市販のボイスレコーダ(サンプリング周波数44,100Hz)を用いた新たな測定方法を考案し,既存の埋込型フォースプレートの測定値と比較することで,その一致性と妥当性を検討することであった.対象者は大学陸上競技部に所属する男子学生15 名であり,ランニング1歩分の接地と離地を埋込型フォースプレート(基準値)とボイスレコーダ(比較値)を用いて測定した.実験は,ボイスレコーダを用いた2 つの異なる測定方法で行い(実験Ⅰ : ピエゾ素子,実験Ⅱ : マイク),その後,それぞれの結果をBland-Altman 分析,級内相関係数(ICC)を用いて基準値と比較値の一致性と妥当性を検討した.その結果,支持時間は,実験Ⅰでは基準値(Fzpi)147.37 ± 12.28 ms に対して,比較値(Vpi)139.41 ± 18.75 ms を示し,ICCpi(2,1)=0.725(0.583 ~ 0.819)であった.一方,実験Ⅱでは,基準値(Fzmic)161.00 ± 11.36 ms に対して,比較値(Vmic)167.99 ± 12.51 ms を示し,ICCmic(2,1)=0.836(-0.035 ~ 0.964)であった.したがって,実験Ⅱの測定精度は,実験Ⅰより高いと言え,ボイスレコーダ(マイク)を用いた足音の測定は既存のフォースプレートの測定値と一致度が高く,新たな測定方法としての妥当性が認められた.
  • ATP チャレンジャートーナメントに出場したプロテニス選手を対象として
    柏木 涼吾, 村上 俊祐, 岡村 修平, 大澤 啓亮, 中村 和樹, 髙橋 仁大
    2023 年 15 巻 p. 366-376
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/29
    ジャーナル オープンアクセス
    テニスにおけるラリーはサービスから始まるため,常にサーバーが主導権を握っていると言われている(日本テニス協会編,2023).しかし,テニスの試合で勝つためにはいずれかの対戦相手のサービスゲームをブレイクしなければならず,試合で勝つためにリターンの技術は重要である.ショーンボーン(2007)も「サービスリターンがテニスで最も重要なショットになる」と述べている.しかし,リターンの打球について詳細に調べた研究は見られない.そこで本研究ではプロテニス選手を対象に試合時のリターンのスピード,回転数及びサービスとリターンの打球の関係性を明らかにすることを目的とした.リターンにおいて1st サービスに対するリターン,2nd サービスに対するリターン,フォアハンド,バックハンド,デュースサイド,アドバンテージサイドなどそれぞれのスピード及び回転数を明らかにしたところ,2nd サービスに対するリターンは1st サービスに対するリターンに比べてスピードが有意に高くなっていた.また,アドバンテージサイドにおいてフォアハンドリターンのスピードがバックハンドリターンに比べて有意に速かったというように,リターンの状況に応じて異なる特徴がみられた.このことから,リターンにおけるゲームパフォーマンス分析を行う際にはこれらを一括りに分析するのではなく,それぞれをわけて分析を行うことの重要性が示唆された
  • ウォーミングアップ後から運動継続時間測定前にかけての自律神経活動の変化を基に
    島貫 聖吾, 田邊 弘祐
    2023 年 15 巻 p. 354-365
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/14
    ジャーナル オープンアクセス
    5000 m の自己ベストで平均15 分20 秒の記録を有する大学の陸上中長距離選手6 名を対象に,異なる強度のウォーミングアップ(W-up)が運動継続時間および運動中の自覚的運動強度(RPE)に及ぼす影響を検討した.15 分間のW-up を中強度(55–60 %HRR)で行った条件と高強度(70–75 %HRR)で行った条件の諸測定値を比較した結果,運動継続時間や運動中におけるHR の経時的変化に有意な差を確認することはできなかった.一方で,RPE は両条件間で異なる経時的変化を示すことが認められた.また,6 名中4 名(66.7 %)の対象者では「高強度」条件よりも「中強度」条件のW-up でRPE が高強度の水準である14 に到達するまでの時間が遅くなることも確認できた.しかしながら,「中強度」条件ではW-up 後から運動継続時間測定前にかけて,副交感神経活動(RMSSD)の再活性化が大きくなる程,その後の運動でRPE が14 に到達するまでの時間が逆に速くなることも明らかとなった.
  • 情報処理モデルに基づく熟練GK の特徴から
    村川 大輔
    2023 年 15 巻 p. 345-353
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/14
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,GK のリスクマネジメント能力について,情報処理過程の観点から熟練GK の特徴を明らかにし,指導現場への提言を得ることであった.大学サッカー部所属のGK7 名を対象に,ゴール前3 対3 場面のフリー選手の検出課題 ( 攻撃視点・GK 視点の2 条件) を実施した.分析の結果,リスクマネジメントの指導者評価が高いGK ほど,フリー選手検出課題におけるGK 視点の検出時間が短いことが示された.一方で,攻撃視点の検出時間と指導者評価の間に関連は認められなかった.以上から,リスクマネジメントに優れるGK の特徴として,事前にフリー選手を検出する情報処理能力に優れていることが明らかとなった.この結果は,GK においても情報処理の要素を含んだ指導方法を検討する必要性を示唆する.本研究は,現代サッカーで重要度が増しているGK の指導方法の構築に寄与する知見を提供したという点で重要な意味を持つと考えられる.
  • 田方 慎哉, 青柳 領, 小牟 礼育夫, 金田 詳徳, 長嶺 健, 大山 泰史
    2023 年 15 巻 p. 331-344
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/14
    ジャーナル オープンアクセス
    監督やコーチは,多くの主観的な情報を総合したイメージを用い,選手起用を行っている.そこで本研究では,選手の主観的特徴からイメージ因子を抽出し,他の因子との組み合わせから選手の類型化を行った.さらに,スタッツなどの客観的なデータによる類型化との比較も行った.評価者は,JBA 公認コーチライセンスを保持する指導者67 名で,認知度が高いB.LEAGUE(B1) でプレイする12 名の選手を対象とした.評価者には,対象選手について35 項目からなる主観的な特徴に関するアンケート調査に5 件方式で回答してもらった.結果,エキスパートのイメージによる類型化によって,4 因子が抽出され,オフェンスを中心とした因子について類型化を行なったところ,5 つの群に分類された.さらに,主観的なイメージによる選手の類型化では「ポジション」「ディフェンシブかオフェンシブか」「身体能力」の3 つの要因が影響していることが示された.最後に,客観的なデータによる分類では,主観的な分類と比較して「ポジション」や「身体能力」などに類似と相違が見られた.つまり,エキスパートは,オフェンスによるイメージをより詳細に持っていると考えられた.
  • 西山 健太
    2023 年 15 巻 p. 320-330
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/14
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    本研究は一般男子やり投げ選手2 名を対象として,高重量やりトレーニングが正規重量やりの投てき距離に及ぼす影響を,動作パターンや練習内容の要因から検討し,トレーニングへの示唆を得ることを目的とした.そのため, 900g の高重量やり(NT4582B,NISHI 社製)を用いたトレーニング期間を12 週設け,トレーニング期間の前後には正規重量やりによる投てき距離の測定を行った.その結果,高重量やりを助走投げに用いた対象者A は,ブロック動作に習熟し,下肢から体幹への運動連鎖が改善された他,リリースまで体幹長軸回転が継続するように投てき動作が変化したことで,投てき距離が1.62 m 増加した.一方,高重量やりを助走練習と立投げのみに用いた対象者B では,助走速度が顕著に増加したが,左足接地時のためが消失したために,投てき距離が1.47 m 低下した.これらのことから,高重量やりを助走投げに用いることは,下肢から体幹への運動連鎖に課題を抱える選手や,リリース時の体幹長軸回転に課題がある選手にとって有効であることが示唆された
  • ボックスを活用した自由脚の振込動作の改善により積極的着地を導いた事例
    小森 大輔, 岩﨑 孝史, 吉塚 一典
    2023 年 15 巻 p. 307-319
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    本研究は,15 m 後半の競技記録を有する大学男子三段跳競技者がステップ距離を増大させるために,ボックスを活用した自由脚の振込動作の改善により積極的着地を導いた事例を提示するものである.取組前後の競技記録は,取組前が15.81 m(+0.1),取組後が15.82 m(+0.6)となった.また,これらの試技の各跳躍歩の距離および跳躍比率はほとんど変わらなかった.しかし,取組前後の上位3 試技を比較すると,ステップの跳躍距離および跳躍比率は,取組後が取組前の最高値(4.32 m(27.3 %))を全て上回っていた.取組前後における動作の違いは,積極的着地を開始するタイミングで,自由脚の下腿が地面と平行に近い位置かどうかであった.取組後は,自由脚の下腿が地面と平行に近い位置から振込動作が遂行され,ステップ踏切が改善された.以上のことから積極的着地を導くには,踏切直前に両脚を挟み込むだけでなく,挟み込みを開始するまでの自由脚の準備姿勢も適切につくることが重要な視点の1 つとなる可能性が示唆された
  • 奥村 文浩, 横山 慶子, 山本 裕二
    2023 年 15 巻 p. 295-306
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/02
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    本研究は,自転車競技のポイントレースにおける集団動態を明らかにすることを目的に,全日本選手権ポイントレースを対象とし,競技中の個人間距離と集団間距離を分析した.競技場の観客席にビデオカメラを設置して,半周ごとの全選手の通過時刻を計測し,半周ごとの全選手の平均速度および選手間の距離を換算した.また,ドラフティング効果に基づいて集団を定義し,集団の推移を分析した.その結果,直前の選手との距離間隔は,競技中の90% 以上で3m 以下であり,ほとんどの時間で空気抵抗が低減されるドラフティングの範囲内に位置することが分かった.また,集団の推移には,集団が一つのまま推移する場合,スプリント前に集団が分離する場合,逃げが形成されそのまま逃げ切る場合,逃げが吸収される場合があった.さらに,逃げが形成された場合において,先頭と主集団の先頭との距離は,逃げ切りが成功するか,あるいは,主集団が逃げ集団を吸収して再結合するかを決定づける距離と考えられた.選手やコーチは,逃げ切れるまたは逃げを吸収することができる距離を把握し,競技中の逃げと主集団間の距離を調整することが重要であることが示唆された.
  • 萱 和磨, 原田 睦巳, 冨田 洋之, 川井 航
    2023 年 15 巻 p. 275-294
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    本研究では、「日本式宙返り懸垂」について局面ごとに実施者間の技術相違を探り、当該技を成功させる為の技術の一要因を考察することを目的とした。実施者については、習得者、未習得者のそれぞれ2 名ずつ4 名を選出した。習得者らの特徴として、準備局面では素早いぬき、あふりを行い、前方開脚宙返り局面では後方に移動しながら回転を行っており有用な技術であると示唆された。
  • 元プロ野球投手かつ理学療法士に対する聴き取り調査から
    東 善一, 松井 知之, 山口 弘佑, 平本 真知子, 宮﨑 哲哉, 山﨑 勢那, 瀬尾 和弥, 来田 宣幸, 森原 徹
    2023 年 15 巻 p. 263-274
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/26
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    プロ野球投手は日本のトップレベルで活躍する選手であり,球速および制球のパフォーマンスアップへ向けて自身の運動感覚,意識に適していると判断したフォームやエクササイズを行っていると予想される.その運動感覚,意識を他者からではなく,自身の解剖学的および運動学的知識で説明されることは正確な理解につながる.そこで本研究では元プロ野球投手かつ理学療法士から投球のパフォーマンスアップにとって良好なフォームと良好なフォームを導くエクササイズについて,解剖学的知識から振り返り,その理由を含めて明らかにすることを目的とした.その結果,フォームとしては八つの重要な点を挙げ,なかでもワインドアップ期で軸脚の膝を伸ばし,胸郭を前後に傾斜させず,水平に保ち,立つことが重要であると述べた.また,そのためのエクササイズとして振り返ると内転筋エクササイズが重要なことに気づけた.軸脚の内転筋は並進移動時には重要だと言われているが,片脚立ちにおいても重要な可能性が示唆された.今回の聴き取り調査により,新たな発想が生まれたため,今後,同様の聴き取り調査は有用だと考えられる.
  • 鈴木 健大, 升佑 二郎
    2023 年 15 巻 p. 253-262
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,高校女子新体操選手10 名を対象とし,ジャンプターン動作における1 年間の動作変化について検討した.踏切局面における右足移動速度は0 ~ 80%局面に有意差が認められ,Pre よりもPost の方が高い値を示した(p<0.05).ジャンプ局面では,膝関節角度における50 ~ 90%局面に有意差が認められ,Pre よりもPost の方が屈曲位を示した(p<0.05).股関節角度においては40 ~ 100%局面に有意差が認められ,Pre よりもPost の方が伸展位を示した.前後開脚角度においては60 ~ 100%局面にかけてPre よりもPost の方が有意に高い値を示した(p<0.05).ジャンプターンにおける1 年間の動作変化について,踏切局面における右足移動速度の増加に伴い,ジャンプ局面における前後開脚角度の増加および左股関節の伸展位の維持が可能となり,股関節の可動域が広い開脚姿勢を保つことができるようになることが示唆された.
  • 山口 寛基, 大石 寛, 野村 友哉, 森 隆彰, 花野 宏美, 石井 好二郎
    2023 年 15 巻 p. 246-252
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/26
    ジャーナル オープンアクセス
    効果的な暑熱対策としてアイススラリー(以下,スラリー)が注目されている.しかしながら,作製や保冷,スポーツ現場への運搬については実用的に検討されていない.我々は専用機器を用いずに作製し,スポーツ現場までの保冷方法と運搬方法を検証した.スラリーを市販のミキサーで作製する際の氷と液体の割合に関しては,氷の割合が多い条件,氷と液体の割合が等しい条件,氷の割合が少ない条件のいずれもスラリー作製が可能であった.ミキサーによりスラリー作製に要する時間は,氷の割合が多い条件では約3 分,氷と液体の割合が等しい条件では約1 分30 秒,氷の割合が少ない条件では約1分であった.保冷方法について,保冷ボトルでは2 時間後までしかスラリー状態を維持しなかったが,真空断熱ボトルに入れた場合,氷の割合が多い条件では3 時間後まで維持した.運搬方法では,真空断熱ボトルに加え,保冷バッグと併用することにより,氷と液体の割合が等しい条件では4 時間後まで,氷の割合が多い条件では5 時間後まで維持が可能であった.
  • 習得前後の運動動作と運動意識の懐古的比較より
    阿比 留萌, 金高 宏文, 竹中 健太郎, 下川 美佳
    2023 年 15 巻 p. 235-245
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/20
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    本研究は, 相手が一足一刀の間合いに入るために移動動作を起こす機会における出ばな面を習得した剣道競技者 (A 競技者) の身体知について報告した.具体的には,習得前後の運動動作と運動意識の懐古的比較から習得・指導に向けた身体知の提示を目的とした.その結果,重要な身体知は「左足母指球付近の荷重感」の意識であることが示唆された.打突前に左足の母指球付近に荷重することで,体を前に出す動作を開始する際に生じる右足から左足に体重をかけ直す動作(荷重移行)が省かれ,さらに打突の適切な距離や体勢に関する運動意識を得ることに繋がった.以上のことから,相手が一足一刀の間合いに入る機会における出ばな面を打突する場合は,左足母指球付近の荷重感を意識し打突の準備をすることが重要であると考えられる.
  • 丸山 啓史, 西 博史, 一箭フェルナンド ヒロシ, 房野 真也, 佐賀野 健
    2023 年 15 巻 p. 224-234
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/14
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,U-12 年代8 人制サッカーゲームに出場したゴールキーパー(GK)64 名を対象に,GK の総移動距離についての基礎的資料の作成と,総移動距離との関連が仮定される勝敗や点差,試合の時間帯,GK 経験,GK 好意度およびGK の発語・指示数との関係を明らかにし,サッカー育成年代GK 指導の一助とすることであった.総移動距離の算出は,二次元DLT 法を採用した.その結果,U-12GK の総移動距離は981.4 ± 227.8 m であり,総移動距離への関連が仮定された独立変数の中で,学年,試合の時間帯,GK 好意度には差が認められなかったが,GK 経験については下位群と比較して上位群の総移動距離が有意に高い値を示した.また,GK の総移動距離とGK が試合中に展開した発語,指示の関係については,発語数,指示数,攻撃に関わる指示数,守備に関わる指示数のいずれにおいても中程度の有意な正の相関が認められた.以上のことから,本研究では8 人制サッカーにおけるU-12年代GK 指導の一助となる資料が得られた.
  • 社会人陸上競技経験者を対象とした事例研究
    中島 明香, 浅沼 道成, 長谷川 弓子
    2023 年 15 巻 p. 206-223
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/14
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,熟練競技者が競技人生において「どん底」に至った心理的・行動的特徴を明らかすることであった.社会人として3 年以上陸上競技を継続した10 名の選手を対象とし,我々は半構造化面接法によるインタビュー調査を実施した.調査後,「どん底」を学生時代に経験した事例と社会人時代に経験した事例に分類し,KJ 法を用いて分析した.その結果,学生時代にどん底を経験していた全ての事例に【受動性(指導者への依存)】と[拠り所の不在]が確認され,その他に【やるべきことの不明瞭】,【結果が出ない】,【心身の負担】,【環境の変化】が特徴として確認された.社会人時代の事例からは,【心身の負担】,【デュアルキャリア困難】,【結果が出ない】,【やるべきことの不明瞭】における[専門的知識不足]が特徴として確認された.特に[加齢による身体的変化],[心理的消耗],および【デュアルキャリア困難】は社会人時代の事例にのみ,確認された.今後,量的な調査の必要はあるが,競技を長期に継続する選手に対してはこれらの特徴を踏まえたサポートや対策の必要性が示唆された.
  • 田中 奏一, 金高 宏文, 前田 明
    2023 年 15 巻 p. 193-205
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/09/05
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,31 歳のベテランのプロサッカー選手である筆者が現役プレイヤー存続をかけて取り組んだ技能課題への改善の1 年間の取り組みについて報告,分析した.改善内容は,ディフェンス時のサイドのボール保持者へのアプローチの角度の変更,オフェンス時のバイタルエリアのパス意識を高めること,ルーズボール時のヘディングトレーニングであった.取り組みの分析から,事例対象者が獲得した実践知は以下のものであった. 1)相手ボール保持者の内側への持ち出しを予測して間合いを詰める守備方法は,スプリント力の低下を補うことができ,最終的には,味方選手と連携した守備で対応すること. 2)バイタルエリアへのパスは相手選手のポジショニングを動機にパスを出し,次の展開を想定して恐れることなく配給する必要があること. 3) 基本的なヘディングトレーニングの反復は,ベテラン選手となっても効果が期待され,トレーニング内容は,ベテラン選手から助言を頂くことが有効であること.このような実践知が得られるには,ベテラン選手となっても,自身のプレーを映像やデータを積極的に活用して分析し,技能課題の本質を理解し取り組むことが重要であることが示唆された.
  • 松江 拓, 前田 明
    2023 年 15 巻 p. 186-192
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,ソフトテニスラケットのストリングテンションの違いが打球速度および打球コントロールに及ぼす影響を明らかにすることであった.実験は高校生女子ソフトテニス選手13 名を対象とし,仮想のテニスコートとターゲットエリアを設定して,実打によるパフォーマンステストを行った.テストは,3 条件のストリングテンションの同一ラケットを用いて,ベースライン付近からターゲットエリアにフォアハンドで打球するものとした.その結果,13 名中12 名は低いストリングテンションにおいて最も高い打球速度を記録した.一部の選手には10%以上の打球速度の向上も見られた.また,ストリングテンションが高いと打球が飛びにくくなり,ネットや想定より打球が浅くなる場面が増加する可能性があり,ストリングテンションが低くなると打球がよく飛び,想定より打球が深くなる場面が増加する可能性があることが示唆された.これらの結果から,ストリングテンションの違いは打球速度および打球コントロールに影響を及ぼす可能性が示唆された.
  • 天野 海都, 三浦 健, 栫 ちか子
    2023 年 15 巻 p. 176-185
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/30
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    現在,ダンス動画によりダンスを習得する学習スタイルが拡大し,今後も継続していくと予想される.そこで本研究では,ダンス動画を活用したストリートダンスのより効果的な指導者の伝達方法や指導の順序を明らかにするため,ダンス動画を用いたストリートダンス指導における伝達方法の違いが動作習得過程に及ぼす影響を検討した.ポップダンスの要素を含み創作した振付(8 カウント× 4)を4 つの手法(言語のみ,オノマトペのみ,言語とオノマトペ,カウントのみ)で指導する動画を撮影・編集し,指導対象者20 名を4 グループに分けて,それぞれのグループで視聴・練習をし,3 回の動画撮影を行い,そのダンス技能について評価を行った.その結果,初見の動きを指導する際に,はじめから「言語とオノマトペ」を用いて指導した場合,学習者にとっては情報過多となってしまった可能性があるのではないかと考えられ,学習者が初見でダンスの動きを習得する際には,最初からひとつひとつの動きの詳細を確認しながら学ぶよりも,まずは大まかな振付を覚え,その後に動きひとつひとつの詳細について指導を受けていく順序性で実施した方が,より効率的である可能性が示唆された.
  • 橋沼 新, 中村 夏実
    2023 年 15 巻 p. 164-175
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/08/03
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    バトルロープ(BR)振り(オルタネイトウェイブ・ダブルウェイブ)による高強度インターバルトレーニング(HIIT)が,男子カヤックシングル200 m全力漕パフォーマンスに及ぼす効果を検討した.対象選手は,大学男子カヌースプリント・カヤック選手1 名であった.HIIT は,BR 振りを20 秒実施し,30 秒の休息を挟んで5 本繰り返すことを1 セットとし,10 分のセット間休息を挟んで2 セット実施した.実施回数は計8 回(2回/ 週,4 週間)であった.HIIT 期間前後で3 本ずつ200 m 全力漕を実施した.その結果,HIIT 後に200 m タイムは約2 秒短縮し,全力漕後の血中乳酸濃度は顕著な高値を示した.また,スタート局面では,1 ストロークの推進距離(DPS)が増大し,フィニッシュ局面では,DPS が短縮されずに高いストローク頻度(SR)が発現した.また対象選手は,強くBR を振る運動が,水上パドリングにおける強いキャッチに好影響を及ぼした感覚をもち,HIIT 終了後の全日本学生選手権大会カヤック200m で優勝した.これらのことから,BR 振り運動によるHIIT は,カヤックシングル200m 全力漕のパフォーマンスに好影響を及ぼす可能性が窺えた.
  • 跳躍実験を手がかりにした場合
    青柳 唯, 小森 大輔, 吉塚 一典, 金高 宏文
    2023 年 15 巻 p. 155-163
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/10
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では,棒高跳競技者が反発力の大きなポールを使う一助として,特例的に行われているポールの下端を切断する際の長さを決める取組について,筆者自身(女子棒高跳競技者)を対象に事例報告するものである.本事例では,男子混成競技者(代行者)による跳躍実験の結果を基にポールを切断していく過程を報告すると同時に,跳躍実験の結果を基に実際に切断したポールを使用した時の筆者の跳躍試技の変化について報告した.跳躍実験の結果,男子混成競技者の主観的なポールの起きにくさの評価を手がかりにすると,ポールを切断する長さは,0.10 m が適切ではないかという見通しが立った.その後,より高い確信度を得るために,映像分析によりポールの挙動(ポール最大湾曲率やポール角速度)の客観的な変化を把握した.その結果,ポール最大湾曲率は変化がなかったが,ポール角速度は0.10m 切断時にはポール角度が約41 度以降に最も高い値に変化したことが確認された.ポールを切断した2 ヶ月後,実際の競技会で筆者自身が使用した跳躍では,最大重心高から有効グリップ高を減じた仮の抜きの高さは,切断前試技の0.30 m から0.50 m へと変化していた.
  • 新型コロナウイルス蔓延による東京五輪2020 大会延期の影響
    小林 玄樹, 来田 宣幸
    2023 年 15 巻 p. 140-154
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/12
    ジャーナル オープンアクセス
    新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響により東京五輪2020 大会が1 年延期になった.本研究は,このような状況下で東京五輪2020 大会に向けた縦断的な心理的サポートが,選手の心理面にどのような影響を及ぼしたかについて事例的に検討することを目的とした.本研究の対象者は,近代五種競技選手6 名であった.心理面の評価は心理的競技能力診断検査を実施した.その結果,新型コロナウイルス蔓延によるスポーツ活動自粛等の影響により,心理的競技能力は選手によって異なった傾向を示した.また,新型コロナウイルス蔓延によるスポーツ活動停止期からスポーツ活動再開期にかけての心理的競技能力の変化も同様に,選手によって異なった傾向を示した.このことから,新型コロナウイルス蔓延による東京五輪2020 大会延期やスポーツ活動自粛等による近代五種選手の心理面への影響は個人差を有していたことが明らかになった.したがって,特殊な状況下における心理的サポートは選手の心理面を適切に評価し,個人に応じた介入が求められる.さらに,スポーツメンタルトレーニング指導士は,マインドフルネス,身体面及び心理面における目標設定,アスリートのキャリア形成などを介入することで,心理的競技能力の向上,低下の抑制に貢献できる可能性が示唆された.
  • ベテラン選手が現役を継続させるポイントを探るために
    田中 奏一, 金高 宏文, 前田 明
    2023 年 15 巻 p. 125-139
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/07
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    本研究は,ベテランのプロサッカー選手がフィジカルの経年変化に応じた課題を克服するにあたって,どのような点に留意すべきかのヒントを得るための事例研究である.30 歳を超えて現役を続行した筆者のフィジカルの経年変化に伴う課題や,改善のために取り組んだ内容,過程について分析した.シーズン終盤には,怪我の頻度の増加,疲労回復力の低下,トップスピードの低下,について改善されたが,高速度で走り続ける力は,完全に改善することはできなかった.プロサッカー選手が長く現役選手としてプレーするためにどのようにフィジカル課題に取り組むべきか検討し,以下のことを考察した. 1)食事形態の指導による食事内容の変更は短期間での効果が期待でき,ベテランの選手にとっては若い選手に比べてより重要な取り組みであること 2)疲労回復力を高めるために,若い頃から蓄積した体重のデータを参考に目標体重を設定し,体重を指標にして除脂肪体重を増やすことは有効であること 3)ベテラン選手が走行速度を改善するためには,主観的感覚による分析により改善が可能だが,より改善するためには若い頃より長期的な視点で走行フォームについて改善する必要があること
  • 小畠 廉生
    2023 年 15 巻 p. 112-124
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    体操競技において高得点を獲得するためには,減点のされにくい技を選択する必要がある.2022 年に鉄棒における角度逸脱の減点に関する規則が改正された.そのため,角度逸脱の減点がされにくい「浮腰回転倒立系」の技を取り入れる選手が増加傾向にある.今回取り上げる〈後方閉脚浮腰回転倒立(閉脚シュタルダー)〉は2022 年版採点規則からC 難度に格上げされた.そのため〈閉脚シュタルダー〉を演技に取り入れることは得点を上げるためには有効な技と考えられる.しかし,〈閉脚シュタルダー〉についての研究は少なく,情報があまりない.そこで本研究では,〈閉脚シュタルダー〉を成功させるためのプロセスを発生運動学の立場から発生分析的考察を行った.〈閉脚シュタルダー〉についての研究がされていない中でコツやカンに関する習得プロセスを呈示できたことは本研究の成果である.この技の習得を目指す選手や指導者にとって有益な資料となるであろう.
  • 中谷 深友紀, 友成 雅貴, 高井 洋平
    2023 年 15 巻 p. 101-111
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/31
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,大学男子柔道選手における自己管理による3 週間の減量が,全身および部位別の身体組成に与える影響を明らかにすることを目的とした.対象者は,20 名の大学男子柔道選手とし,通常の稽古に加えて出場する階級の規定体重まで体重を減少させる群(減量群,10 名)と通常の稽古のみを行う群(対照群,10 名)に分けた.各選手が公式戦に備えて,それぞれの階級に合わせて減量を行った(20 日間).その前後に,二重X 線エネルギー吸収法(DXA)を用いて,全身および部位別の脂肪量および除脂肪組織量を測定した.対照群ではいずれの変数も,対象期間で有意に変化しなかった.減量群の体重は,3.0 ± 1.4 kg(4%)減少した.全身除脂肪組織量は減少したが,全身脂肪量は減少傾向であった.体幹部では脂肪量および除脂肪組織量ともに減少し,下肢部では減少傾向にあった.上肢部では減量前後で有意な変化は認められなかった.以上のことから,大学柔道選手における自己管理による減量は,全身除脂肪組織量を減少させ,特に体幹部においてその減少が大きいことが明らかとなった
  • 舞踊専攻生とプロダンサーの比較から
    岡 千春
    2023 年 15 巻 p. 83-100
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル オープンアクセス
    舞踊における熟達は,運動スキルの獲得だけでなく表現スキル・上演スキルともいえる芸術表現としての熟達も考慮する必要があり,その熟達過程には上演芸術ならではの特性があると予測される.本研究ではジマーマンの自己調整学習(SRL)に着目し,特に準熟達者としての学生ダンサーと,熟達者としてのプロダンサーへの質的調査の結果を基に,プロとしての熟達を促進する要因について,自己調整学習(SRL),特に共調整と社会的に共有された自己調整学習(SSRL)の視点から考察した.PAC 分析及びインタビュー調査の結果から,プロダンサーは作品創作経験および公演活動における他者との社会的かかわりによって,自らの舞踊観で重視する要素を変容させていることが示唆された.特に芸術としての舞踊の表現性や,舞踊への主体的な向き合い方の熟達は,舞踊集団に所属しSSRL を経験することによって促進されると考えられる.プロダンサーの自己調整学習(SRL)としての熟達過程においては,振付家や仲間のダンサー,観客などとのコミュニケーションによって,①共調整,② SSRL,③さらなる自己調整,というサイクルが活性化されることが示唆されたといえる.以上から,プロダンサーはSSRL による自己調整方略の使用によって,プロとしての舞踊表現を熟達させていくことが考察された.
  • 廣澤 聖士, 下関 元, 橋場 智子, 鈴江 智彦, 高林 諒一, 久永 啓, 永野 智久, 千葉 洋平, 渡辺 啓太
    2023 年 15 巻 p. 69-82
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/25
    ジャーナル オープンアクセス
    スポーツ現場では競技力向上のため様々な情報を活用する重要性が高まっており,情報戦略専門スタッフの需要も増加している.一方,国内関連人材の実態について詳細な報告はされていない.本研究は,国内情報戦略専門スタッフの属性・雇用・活動・業務状況の把握を目的とし,スポーツ現場で選手の競技力向上のために情報を活用している者を対象に,SNS を用いた機縁法によるアンケート調査を実施した.得られた295 名分の回答について,情報戦略群と他職種群に分け比較検討した結果,情報戦略専門スタッフの特徴として,20 代から30 代前半の男性が競技力の高いチームや選手を対象に活動しており,フルタイムに近い労働形態で年収は国民平均と同等であった.また,選手個人だけでなくチームに対して長期的な目的で情報を活用しており,スポーツ用映像分析ツールを用いた情報収集・分析・レポーティングが標準的な業務であった.一方,関わる競技の種類やカテゴリーは限定的であった.また,情報戦略専門スタッフの呼称としては,アナリストが多く用いられていた.本研究から得られた結果をもとに,専門人材の普及,発展のためのさらなる知見の蓄積が期待される.
  • 山川 啓介, 仙石 泰雄, 吉岡 利貢
    2023 年 15 巻 p. 61-68
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/05/02
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は,骨格筋fMRI(mfMRI)を用いたドルフィンキック泳における筋活動評価の妥当性を検討し,大腰筋の筋活動レベルを事例的に評価することを目的とした.本研究には男子大学競泳選手1 名が参加した.対象者は,ドルフィンキック泳の前後でMRI 撮像を行う課題とドルフィンキック中の表面筋電図(sEMG)を計測する課題の2 課題を行った.mfMRI の被験筋は,大腰筋,腹直筋,背筋群(脊柱起立筋及び多裂筋),大腿直筋,大腿二頭筋の5 筋とし,sEMG 計測では腹直筋,脊柱起立筋,大腿直筋,大腿二頭筋の4 筋とした.結果として,ドルフィンキック泳における大腰筋のT2 値変化率は13.1% であり,大腿二頭筋の14.8% に次いで2 番目に高い活動レベルを示した.また,両測定方法から評価した大腰筋を除く4 筋の筋活動レベルのコサイン類似度は0.99 を示し,mfMRI を用いた筋活動評価が十分に妥当である可能性が示された.
  • 1 名のセーリング選手を対象とした事例的な検討
    今津 雄登, 榮樂 洋光, 山本 正嘉, 笹子 悠歩
    2023 年 15 巻 p. 54-60
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/18
    ジャーナル オープンアクセス
    電子付録
    本研究は,セーリング競技を専門とする筆者が,フリックの持続時間を向上させるために行ったトレーニングに関する事例報告である.トレーニングは,初めに前腕の筋力向上を狙いとし,筋力トレーニング用のケーブルマシン(持ち手の部分はストレートバー)を用いた,フリックを模擬した間欠的運 動(10 秒運動× 10 秒休息× 10 セット)と,前腕の筋力トレーニングを1 ヶ月間実施した.その結果,持続時間は108 秒から134 秒まで向上したが,筆者の目標は180 秒であり,さらに46 秒の向上が必要であった.そこで,次の1 ヶ月は,トレーニング時の持ち手の部分を,ヨットで使用する用具に変更した.また,トレーニングの狙いを,広背筋などのより大きな筋群を用いた動作を習得することとした上で,間欠的運動(1 分運動× 1 分休息× 3 セット)のみを行ったところ,持続時間は183 秒まで向上した.以上の結果から,フリックの持続時間向上のためには,ヨットで用いる用具を使用しながら,フリックを模擬した陸上での補助トレーニングを実施することに加え,前腕の筋疲労が制限要因となっている場合は,補助トレーニングによって,広背筋などのより大きな筋群を用いた動作に改善することが,重要である可能性が示唆された.
  • 1名のセーリング選手を対象とした事例的な検討
    笹子 悠歩, 真鍋 優, 榮樂 洋光
    2023 年 15 巻 p. 44-53
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/18
    ジャーナル オープンアクセス
    下肢の筋力トレーニングが,ハイクアウトの継続時間に及ぼす影響について,事例的に明らかにすることを目的とした.対象者はハイクアウトの継続時間に課題があると考えられた大学セーリング選手1 名とし,デッドリフト,スクワット,カーフレイズの3 種類を,80%1RM の強度にて,10 回× 3 セットを週に2 日,3 ヶ月間実施した.トレーニング効果の測定は,ハイクアウトベンチを用いたハイクアウトテストに加え,各トレーニングの最大挙上重量,およびウィンゲートテストとシャトルランを行った.その結果,デッドリフトは5.7%,スクワットは18.5%,カーフレイズは4.9% 向上し,ウィンゲートテストは,平均パワーが6.7% 向上した.また狙いとしたハイクアウトの継続時間は,pre では65 秒であったものが,post では114 秒(変化率:75.4%)となり,国際レベルの選手の値(114 秒)と同程度の水準まで向上した.以上のことから,下肢の筋力トレーニングにより,ハイクアウトの継続時間が改善する可能性が示唆された.
  • 「教科の指導法」の学修成果を活用した取り組みの成果と課題の検討
    松村 優輝, 松下 盛泰, 渡辺 輝也
    2023 年 15 巻 p. 24-43
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/27
    ジャーナル オープンアクセス
    保健体育の教職課程ではウィズコロナ時代にあっても柔道を安全に教えられる指導力の基礎を育む必要がある.先行研究は,バディシステムの導入を通じて感染症対策と学修成果の保障を試みたが,模擬授業の実施などに起因して技能学修に課題が残されたことを報告している.本研究の筆頭著者がTAとして勤務する大学では,2022 年度には柔道の専門実技は模擬授業の実施を含む開講が予定されていた.本研究では,模擬授業の実施に際して「教科の指導法」の学修成果を活用し,感染症対策を受講生自身に徹底させるとともに技能の観察評価を行わせた.その結果,模擬授業の実施を通して,学生自身による感染症対策が徹底され,技能学修も充実した.また,授業最終回に模擬授業の振り返りとして教師役以外の受講生にも模擬授業の動画を用いて技能評価を行わせた結果,学習のつまずきを見出す評価には受講生間で高い一致率が認められた一方,「受と取を同時には見られない」などの典型的なつまずきも見出された.これらの結果から,専門実技において「教科の指導法」の学修成果を活用して技能評価を実施することには,運動の観察学習を含めた技能の学修を充実させられる可能性が示唆された.
  • 大学の部活動で陸上競技に取り組む学生の事例研究
    伊藤 詩織, 北村 勝朗
    2023 年 15 巻 p. 9-23
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/16
    ジャーナル オープンアクセス
    女性競技者の月経に対する支援自体は存在するが,利用につながっていない点,支援を受けていると感じられていない点が課題として挙げられる.女性競技者の月経に対する考え方やその視点から見える環境などを詳細に聞き取り,知ることが重要と考えられるため,本研究では,女性競技者の月経に関わる現象を聞き取り,探求することを目的とする.経験や認知,行動といった現象を探求する目的で半構造化インタビューを実施し,個別性を明らかにするため,1 名を対象に深く考究する.質的データ分析方法に基づいた分析の結果,女性競技者と月経との関係性は,【パフォーマンスに必要な身体感覚】【試合に被って欲しくない月経】【自分に合った月経サポートが見つからない】および【競技における信念】の4 つのカテゴリーによって示された.月経に関するさまざまな経験をすることで,女性競技者の各カテゴリーは循環するように互いに影響を及ぼし合い,信念や対処方法を変化させていく点が推察された.競技者に月経という現象がただ付随しているのではなく,月経があることで生じる競技者特有の問題が生じ,競技生活を送る個人の思考や感覚,人間関係の中全体に月経が存在していることが見出され,困難や葛藤,対処が生じている点が見出された
  • 飯田 祐士, 前田 明
    2023 年 15 巻 p. 1-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/03/16
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は,大学トップレベルの女子卓球部の体力測定データから,大学女子卓球選手における体力要素の指標を示すこと,競技力にかかわる測定項目を明らかにすること,体力要素向上の一要因と考えられるトレーニングプログラムの一例を示すことであった.示されたデータから,競技力(レギュラーと非レギュラー)との関連性より,立ち幅跳びと20m 走が有効な測定項目であることが明らかとなった.またこれらの測定項目に関連する体力要素向上には,下肢の一般的なレジスタンストレーニングに加え,プライオメトリックスやダンベルを使用したウエイトリフティングエクササイズを用いて,年間を通したトレーニングプログラムを実施することが有効である可能性が示唆された.
feedback
Top