バイリンガルの認知症高齢者とのより有効なコミュニケーションの可能性を検討することを目的とし,異文化に配慮した母国語による個人回想法を用いた会話を実施した.会話は,在日コリアン向けの特別養護老人ホームに入居中で中等度または重度の認知症をもつバイリンガル高齢者4人(すべて女性,平均88歳)の協力の下に行った.母国語と日本語の場面において,個人回想法による会話内容や感情表出に差が生じるかという視点から両場面の比較分析を行った.その結果,重度の認知症高齢者であってもバイリンガル話者の特徴である自然なコード切り替え(Code-Switching ; CS)がみられた.すなわち,過去の学習や経験により蓄積された母国の言語形式を使う機能が残存能力として潜在していることが明らかになった.なお,ERiC感情反応評価尺度を用いて観察した結果,日本語の場面より母国語の場面において肯定的感情の豊かさが観察された.以上より,バイリンガル話者である在日コリアン認知症高齢者一世たちとの母国語を用いた回想法による会話は,バイリンガル話者の特徴を踏まえた1つの有効なアプローチになると考えられる.