2008 年 30 巻 1 号 p. 47-57
本研究の目的は,要介護高齢者を対象に,判断能力が低下した場合を想定した事前計画を示すか否かに関連する要因を量的な調査に基づき解明すること,さらに質的データに基づき事前計画の表示に至るプロセスについて検討することにある.調査対象は東京都区内にある2か所の通所介護施設を利用する要介護高齢者で,量的データについては91人に対して実施した面接調査から得られた.質的データについては,事前計画に影響すると思われる家族構成に着目し,家族構成の異なる5人に対して実施した半構造化面接によって得られた.分析の結果,量的調査からは,①事前計画を示す傾向を強める要因として,独居と判断能力低下への不安があること,②事前計画と判断能力低下に備えての自己決定との関連については,判断能力低下に備えて「家族と相談して決める」という人は,「家族に任せる」人よりも「自分で決定する」人と近い関係にあり,要介護高齢者の事前計画は,本人だけで完結せず家族の意思に影響されることがうかがえた.質的調査からは,判断能力低下の可能性を見込んだ将来像を形成している人が家族との関係の確認を経て事前計画の決定・表示へとつながることが分かった.