宗教研究
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「共に生きること」の困難と希望 : 『聖書』の示す人間観・社会観を手がかりとして(<特集>生命・死・医療)
空閑 厚樹
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2006 年 80 巻 2 号 p. 407-430

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抄録

「宗教と生命倫理」という論題のもとで一般に宗教に期待されている役割とは、既存の非宗教的な枠組みのみでは解決しえない問題-脳死・臓器移植やES細胞研究の是非-についての宗教的立場からの見解表明であると思われる。たしかに、「生命倫理」の課題の多くは「生、死、医療」についての論点を含んでおり、これは歴史的に宗教が扱ってきた領域である。しかし、現代社会においてこのような意味で宗教の役割を理解することは困難であると考える。本稿では「宗教と生命倫理」における「宗教」を、聖書を参照することにより再検討した。具体的には創世記などに見られる人間観や社会観を参照することで、そこから読み取ることのできる「共に生きること」の困難と希望に注目した。そして生命倫理の課題において宗教の果たすべき役割とは、医療におけるジレンマ解決のための役割ではなく、この「共に生きること」の重要性を、他者の生命、安全、幸福を願うという原義をもつ福祉の視点からリアリティをもって示すことであると論じた。

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© 2006 日本宗教学会
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