本稿では、安楽死問題について、米国の生命倫理学の成立期に活躍したリチャード・マコーミックの思想を考察し、現代に安楽死を考える手がかりをもとめた。七〇年代米国では安楽死が社会問題として浮上していったと言われるが、この時期にマコーミックが執筆した数編の論文を考察対象とし、彼が安楽死問題についてどのように考えていたのか、その基本を明らかにした。彼は安楽死問題において、生命至上主義には陥らず、人間的関係性を中心に生命の質を考慮しつつ、個々の事例に則して柔軟かつ合理的に判断することを論じていた。ただしここで一つ疑問が残るのは、合理性と関係性のつながりである。マコーミックは両者の連続性を疑わないが、たとえば不合理であっても家族が関係性にこだわり生命維持装置の継続を望むこともあろう。徐々にマコーミックは合理性に傾いていくが、むしろ彼が述べた人間的関係性に、われわれは今日安楽死を考える手がかりを見たい。