抄録
全体は「宗教と社会倫理の学問的方法論」、「宗教は幸福な社会にどう資するか」、「賀川豊彦の宗教倫理と宗教認識論」に分かれる。「宗教と社会倫理」を学問的かつ実践的に扱うために、従来の宗教社会学の方法論ではなく、創発的解釈学と呼ばれる方法論を打ち出す。これは科学と宗教を実在論として意味づける哲学的立場である。次に功利主義倫理の幸福概念は市場主義に行き着かざるを得ないことを示し、これを克服するためにR・E・グーディンの実証的な「脱生産主義モデル」を援用しつつ、労働市場にすべてのエネルギーを吸い取られないで「自由になる時間」を増やし環境配慮型の幸福な社会の形成と宗教倫理との関係を示す。日本でこの方面の先駆的働きをした賀川豊彦を取り上げ、その友愛のスピリチュアリティーと協同組合運動から、連帯による市民社会形成のモデルを示す。今後、儒教の「仁」、仏教の「慈悲」、キリスト教の「隣人愛」が市民社会形成のエートスとなるべきことを提言する。