宗教研究
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『論理哲学論考』における「語りえないもの」と「沈黙」をめぐる新解釈 : ウィトゲンシュタインの生涯において「文番号七」がもった意味
星川 啓慈
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2009 年 83 巻 3 号 p. 813-836

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抄録

ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』(『論考』)における「人は、語りえないものについては、沈黙しなければならない」という文番号七を、『原原論考』(『原論考』以前のもの)にまで遡り、その原形を確認すると、それはもともと「価値」との関わりで書かれた可能性が高い。『論考』出版後は、最初「自戒」であった文番号七が、公言となって彼に付きまとい、彼の「神や信仰や宗教について語りたい」という欲求・衝動とこれを抑えることとの間で、ドラマが展開された。すなわち、次のようなことである。ウィトゲンシュタインはこの公言を意識しつつ、哲学的著作では自分自身の神や信仰や宗教について書くことは控えたが、その裏で、この欲求・衝動を捨てきれなかった。そこで、「倫理学講話」で文番号七の公言を覆すことを示唆し、哲学者として論述するのではないところでは、生涯にわたって神や信仰や宗教について書いたり話したりし続けた。『哲学宗教日記』にはそのドラマが反映されている。

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© 2009 日本宗教学会
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