2012 年 85 巻 4 号 p. 857-878
近年の日本社会の、人と人との繋がりの希薄化は、地域社会に伏在している多様な問題群の可視化と、それらへの社会的支援を困難にしている。このような「生きづらさ」に満ちた、命を支え合う絆が喪失した時代のなかで、宗教者達が果たすべき役割は、同時代の人々の「痛み」との繋がりを形成して、それぞれの宗教施設を地域社会変革の拠点に創り変えていくことである。諸宗教の教団制度の内側には、発生段階での経験が、近代の共同体枠組みを脱していく「集合的な記憶」の装置として埋め込まれている。そして、現代を生きる宗教者達の様々な社会支援の試みは、「宗教」の側からの一方的な「社会貢献」に止まらず、「痛み」の側から「宗教」の絆そのものを問い直し、初発の共同性の記憶を再活性化させていく、宗教者自身の覚醒の契機ともなっている。