宗教研究
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洪水神話の文脈 : 『ギルガメシュ叙事詩』を中心に(<特集>災禍と宗教)
渡辺 和子
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2012 年 86 巻 2 号 p. 447-472

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抄録

「ノアの洪水」の記事はメソポタミアの洪水神話と同系であることが広く知られているが、多神教的背景をもつものとは内容も文脈もおのずと異なる。また「多神教的」、「一神教的」背景の具体的内容も検討を要する。『ギルガメシュ叙事詩』(標準版)第一一書板にある洪水神話は、ウータ・ナピシュティの口からギルガメシュに語られる。神々の会議で最高神エンリルが洪水を決定し、他の神々にはそれを人間に漏らさないことを誓わせる。しかし知恵の神エアはウータ。ナピシュティに暗に伝えて船を造らせて生命の種を救う。洪水後に最高神はその暴挙をエアに責められて悔い改め、ウータ・ナピシュティに永遠の命を与える。洪水の顛末を語り終えたウータ・ナピシュティは、「今」では永遠の命を与えるために神々の会議を招集するものはいないと宣言する。他方聖書では、神は人間を創造したことを後悔して洪水を起こすが、ノアに船を作らせて生命の種を救う。洪水後も責められることはなく、ノアと契約を結んで再び洪水を起こさないと誓い、ノアには長寿を与える。

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