宗教研究
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神経生理学とユダヤ教 : 決定と自由の狭間を生きたB・リベットの場合(<特集>科学・技術と宗教)
星川 啓慈
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2013 年 87 巻 2 号 p. 377-401

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抄録

神経生理学者ベンジャミン・リベット(1916-2007)たちは、手首を曲げるなどの随意運動における「自由意志」は脳内に準備電位が蓄積されてから約五五〇ミリ秒後で発現する、という一連の実験結果を発表した。この「自由意志は無意識的な脳活動の後から生じる」という衝撃的な実験結果は、多くの分野の研究者の耳目を集め、従来の決定論や自由意志論の解釈に大きな波紋を投げかけた。自然主義的傾向が強い研究者たちは、これを「自由意志の否定」と結びつけた。しかし、リベット自身は自由意志の存在を否定するのではなく、行為を「拒否/中断する」という特殊な形態においてではあるが、自由意志の存在を一貫して肯定した。その裏には、ユダヤ教信者としての彼の「自由意志を死守するという信念」が存在していた。さらに、彼は自らの実験結果と結びつけて「倫理体系としてのユダヤ教はキリスト教よりも優れている」とみなした。彼の神経生理学上の実験解釈や思索を決定づけたものは、ユダヤ教であった。

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