本稿の目的は、韓国巫俗を無形文化財として語る言説の展開を、とくに巫俗の宗教的側面が排除される様相に注目して明らかにする点にある。一九六〇年代から始動した「国家無形文化財」としての制度は、これまで多くの巫俗儀礼や巫俗音楽に価値を付与してきた。この点に関し、先行研究では、巫俗のどの要素が文化財として評価されたのか、そして巫俗の宗教的側面が如何にして排除されたのか、に関する具体的な議論はなされてこなかった。そこで本稿では、巫俗に見出される芸術性や共同体に秩序をもたらす機能が、民族文化として評価される具体的側面を示した。他方、巫俗を無形文化財として語る言説からは、巫俗に見出される卜占の機能、儀礼としての側面、ムーダン(シャーマン)や信者に共有される信仰の側面を価値が低いものして否定的に捉える言説も確認できる。無形文化財の言説から見出される巫俗の宗教的側面の排除は、「宗教」の範疇から基本的に除外され、「文化」的側面に限って許容されてきた巫俗の歴史を示すものでもある。