宗教研究
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論文
対話篇『シュヴェスター・カトライ』成立の背景と作品の意図についての一考
十四世紀ストラスブールにおけるベギンとドミニコ会をめぐる状況から
菊地 智
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2021 年 95 巻 1 号 p. 25-48

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抄録

十四世紀前半にストラスブールで成立したと考えられている中高ドイツ語の対話篇『シュヴェスター・カトライ』(Schwester Katrei)は、ベギンと思われる在俗信徒の女性と、ドミニコ会士と思われる聴罪司祭の二人の登場人物が、対話を繰り返しながら、それぞれ霊的成長を遂げ、神との合一に達するまでの過程を描いている。主に異端研究、あるいは、作品にその間接的影響が窺えるマイスター・エックハルトの受容史研究の分野で扱われて来たが、作者不詳で、作品中にも人名や地名、そして歴史的出来事への言及がほぼ皆無なため、成立の背景と作品の意図については十分に解明されていない。本稿は、テクストに描かれている登場人物の立場や互いの関係を検証し、そこから読み取れることを同時代の他の歴史資料に照らしながら、十四世紀ストラスブールにおいて教区教会からの弾圧に晒されるベギンと彼女たちを司牧するドミニコ会の密接な関係が作品の背景にあること、そしてドミニコ会士が彼女たちを擁護しその霊性に触れることで自分たちの創設の理想を取り戻すさまを描くことに作品の意図があることを示す。

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