2025 年 15 巻 1 号 p. 53-61
本稿では,閾値なし発がん性の定量的評価の課題を紹介し,最近実施した既知ニトロソアミン類の発がん性強度に関する研究の概要を示す.閾値なし発がん性の定量的評価では,ほとんどの場合,動物試験データにもとづく低用量外挿が行われており,医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use: ICH)M7ガイドラインでは50%発がん用量(Tumorigenic Dose rate 50: TD50)またはベンチマークドース(BMD)法により計算して求めた10%ベンチマーク用量信頼下限値(benchmark dose lower confidence limit 10%: BMDL10)の使用が推奨されている.これらの発がん性の指標については,導出根拠である発がん性試験の精査による妥当性検証や,BMD法を使用する場合の方針決定などが必要である.最近,我々は欧州医薬品庁(European Medicines Agency: EMA)が提案したCarcinogenic Potency Categorization Approach(CPCA)の生物学的妥当性を検討した.その結果,一部の既知ニトロソアミン類について,CPCAによる推定許容摂取量(AI)と独自に計算して求めたBMDL10から導出した10−5発がんリスクレベルとの間にギャップがあった.今後の研究によりその原因を探ることで,CPCAの改良あるいは新たな発がん性強度指標の推定方法の確立につながるかもしれない.