安全工学
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総説
大気中SOx及びNOxの有害性の本質
北川 徹三
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1977 年 16 巻 1 号 p. 1-12

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抄録

硫黄を含有する燃料の燃焼排ガス中には,一般に硫黄酸化物(SOx)が含まれているが,従来,人の健康に対するSOxの有害性の本質については,不明の点が多かったため,便宜上,ガス状で,しかも測定の容易な亜硫酸ガス(SO2)が,大気汚染の指標物質とて選ばれた.大気中に放出されたSO2は,空気中で酸化されて硫酸(H2SO4)を生成するが,この場合は,希硫酸にしかならないので,視程障害は起きるが,呼吸器疾患の原困となるかは疑わしい.一般に,濃硫酸は希硫酸とちがい,強酸性のための蛋白質の凝固と脱水作用による原形質の壊死を来す、含硫黄燃料を用いるボイラー等の燃焼炉,ディーゼル自動箪のエンジン等から,直接排出された濃硫酸を含む含硫酸粒子は,大気中に浮遊して有害な粒子状物質となる、呼吸器疾患の原因となる真の有害物質は,これらの濃硫酸粒子であって,大気中のガス状のSO2またはNO2は,含硫酸粒子による大気汚染の程度を表示する指標物質と考えるべきものであろう.従来の疫学的調査は,環境の汚染程度と疾患の発生率との間の相関性の有無を明らかにするに止まるもので,相関性の存在は,直ちに困果関係の成立を意味するものではない.因果関係は,環境汚染問題の発生経過である有害物質の生成,排出,拡散,摂取及び影響の5過程の機構を理学,工学,医学,生物学等の領域から総合的に判断することによって初めて明らかにされるものである.

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© 1977 特定非営利活動法人 安全工学会
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