2007 年 46 巻 2 号 p. 82-88
労働安全教育の現場では,「体験型教育」「体感教育」等の疑似的な体験を取り入れた教育手法が展開されている.しかし,その理論的背景について十分な検討がなされないまま「体験すること」のみが重視された結果,労働者の実質的な安全態度の向上につながらず,むしろ労働者の不安全行動を助長する事態が生じることも懸念される. 本稿では,労働安全教育における疑似的な体験の意義と諸課題について検討した.教育効果向上のためには,単なる体験にとどまることなく,実際場面で遭遇する危険とその対処方法について具体的なイメージを形成し,過去経験と結び付けて展開を図ることが重要である.また,危険補償行動に対して適切な対応を図らなければむしろ災害発生率を高める可能性があり,新たな教育手法の普及・展開においてはこうした副作用を十分に考慮する必要がある.