クボタの発表に端を発したアスベスト(石綿)問題は,現在でも大きな社会問題となっている.アスベスト廃棄物の排出量は,今後2020~2040 年にピークとなるといわれており,解体を含めた処理・処分の過程で新たな環境問題を生ずるおそれもある.環境省では,特にこれまでの消費量が4 000 万トン以上で,年間100 万トン以上が排出される非飛散性アスベスト廃棄物を中心に,処理・処分と安全性の確認に関して数度にわたって廃棄物処理法の改定を行ってきた.そこで,ここでは有害廃棄物であるアスベストに焦点を当て,これらの処理と安全性について論じた.
引火点が常温を超える物質の蒸気の放電着火エネルギーを簡便に測定する装置を開発した.これを用いて,国内で一般的に用いられている三種類のドライクリーニング用溶剤(商品名White N―10, Isopar L およびSilicon Plus α)の蒸気と空気との混合気の着火特性をさまざまな条件で測定した.いずれの溶剤も,150 ℃における最小着火エネルギー(MIE)は化学量論比よりもやや高い濃度で得られ,0.21~0.36 mJ であった.混合気の温度が高いほどMIE は小さくなった.不着火となる酸素濃度は11~12 %であったが,減圧下においては10 kPa でも着火した.Silicon Plus αは三種類中最も引火点が高いが,最も広い爆発濃度範囲を有するとともに,同温度でのMIE も最も小さいものであった.さらに,蒸気濃度によって爆発後に生成される物質の変化を観測した.
化学会社の生産現場で長年働いてきた人ならだれしも,もしかしたら大災害になっただろうと思われるトラブルに遭遇した経験がある.しかしながら,大部分のトラブルは見過ごされても問題にならなかったか,すぐに処置されて問題とならなかったケースである.危険物の扱い量が多い化学分野の事故は小さなトラブルが悪くすると大きな災害を引き起こすことが特徴である.すなわち,小さなトラブルのうちに対処し災害を防ぐことが重要である.ここでは生産現場での教育訓練の紹介と,安全性評価の事例,危険なこと異常なことへの対応の改善事例を紹介する.
労働安全教育の現場では,「体験型教育」「体感教育」等の疑似的な体験を取り入れた教育手法が展開されている.しかし,その理論的背景について十分な検討がなされないまま「体験すること」のみが重視された結果,労働者の実質的な安全態度の向上につながらず,むしろ労働者の不安全行動を助長する事態が生じることも懸念される. 本稿では,労働安全教育における疑似的な体験の意義と諸課題について検討した.教育効果向上のためには,単なる体験にとどまることなく,実際場面で遭遇する危険とその対処方法について具体的なイメージを形成し,過去経験と結び付けて展開を図ることが重要である.また,危険補償行動に対して適切な対応を図らなければむしろ災害発生率を高める可能性があり,新たな教育手法の普及・展開においてはこうした副作用を十分に考慮する必要がある.
製品の欠陥で消費者が被害にあった場合,メーカーや販売業者は自己に過失がないことを立証できない限り,被害者に損害賠償を行わなくてはなりません.その予防のためにも,製品の安全・信頼性設計が重要です.具体的には安全規格を満足し,製品に不具合を生じさせないための安全・信頼性設計を行います.つぎに,リスクアセスメントとして製品に内在する危険の大きさを評価して,その危険を許容できる範囲まで低減することです.
いまでは,油火災を泡(空気泡)で消火する事は常識となっているが,第二次世界大戦後の駐留した在日米軍によって,空気泡を使用した石油タンク火災の消火が紹介されるまで,日本ではその知識はなかった. 石油化学産業発展とともに全国各地に石油コンビナートや石油備蓄基地が建設され,超大型の石油タンクが出現し,「石油コンビナート等災害防止法」により,「三点セット」の設置が義務化された.しかし,これは石油タンクの全面火災に対応できるものではない.また,「泡消火薬剤の技術上の規格を定める省令(規格省令)」を満足する,所謂「検定合格品」である泡消火剤のうち,どの泡消火剤が石油タンク火災に対処できるか,正確に理解されていない現実がある. 規格省令に規定される消火性能試験基準が海外規格と大きく異なっている事を再認識する必要がある.
多くの化学物質は火災や爆発など,固有のエネルギー危険性を有している.一方,エネルギー危険性は潜在的危険性であり,不適切な取り扱いにより事故となることが多い.化学物質による火災,爆発,反応暴走などの事故を防止するためには,危険性を正しく理解することが必要である.安全工学会では科学技術振興機構に協力して,化学物質とプロセスの安全に関するWeb 教材を作成した.この教材はWeb ラーニングプラザ(http://weblerningplaza.jst.go.jp/)で公開されている.今回,物質安全に関するWeb 教材の執筆担当者によって,化学物質の個別危険性,危険性評価手法,事故事例などを順次紹介することになった.Web 教材と併用して頂くことにより,エネルギー危険性をより効果的に学習できるものと期待している.