産業衛生学雑誌
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調査報告
複数企業の一般労働者を対象としたWork Limitations Questionnaire日本語版(WLQ-J)の信頼性・妥当性の検討
井田 浩正中川 和美田上 明日香中村 健太郎岡村 達也
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2017 年 59 巻 1 号 p. 1-8

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抄録

目的:プレゼンティーズムが企業にもたらすコストはアブセンティーズムよりも大きいことが先行研究で示されている.本邦において,従業員に対する健康増進の取り組みの結果を仕事のパフォーマンスとして評価することが,企業経営の観点からより重要になってきている.筆者らは先行研究において,Lerner Dらが開発したプレゼンティーズム測定尺度であるWork Limitations Questionnaire(WLQ)の日本語版(WLQ-J)を開発し,IT企業,医療機関の従業員710名を対象としてWebによる調査を行い,WLQ-Jの信頼性・妥当性についての検証結果を報告した.本研究では,先行研究よりも多数の企業,業種の従業員を対象に,開発研究と同様の方法でWLQ-Jの信頼性・妥当性について検証を行うことを目的とした.対象と方法:14企業,9業種の従業員4,440名を解析対象者として,WLQ-Jの信頼性・妥当性の検証を行った.解析対象者は,2014年9月から2015年1月にWeb又は質問紙によりWLQ-J及び職業性ストレス簡易調査票に回答した4,712名の対象者から抽出した.結果:解析対象者の平均年齢は40.3±11.8歳(開発研究では33.2±9.5歳)で,男性が77.9%,女性が21.1%であった.WLQ-Jの因子構造が開発研究と同様に原版と一致したことから,WLQ-Jの因子的妥当性が支持された.また,尺度全体及び下位尺度毎のCronbachのα係数を求めた結果,尺度全体で0.87(開発時0.97),下位尺度で0.77-0.94(開発研究0.88-0.95)となり,十分な内的一貫性が認められた.WLQ-Jの4つの下位尺度と職業性ストレス簡易調査票のストレス反応との相関を求めた結果,0.28-0.64(開発研究0.39-0.60)で有意(本研究,開発研究ともにp<0.01)な相関が示された.さらに,開発研究と同様にストレス反応が大きくなるにつれて,有意(開発時p<0.01,本研究p<0.001)にWLQ-Jの下位尺度得点が高くなる量反応関係が確認され,WLQ-Jの基準関連妥当性が支持された.結論:開発研究よりも多数の企業,業種で,平均年齢及び男女比が本邦の産業全体に近い母集団において,WLQ-Jの信頼性・妥当性が示されたことから,WLQ-Jが本邦の多種多様な母集団において,安定性を有するプレゼンティーズム尺度として活用可能であることが示唆された.

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© 2017 公益社団法人 日本産業衛生学会
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