産業衛生学雑誌
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原著
中小企業における就業配慮を要する状況下での治療と仕事の両立支援を促進し得る要因:協働的風土ならびに被援助に対する態度に着目して
山内 貴史須賀 万智 柳澤 裕之
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2022 年 64 巻 2 号 p. 69-80

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抄録

目的:「治療と仕事の両立支援」に関する先行研究では,従業員数300人未満の中小企業では両立支援の認知度が低いとともに,労働者が病気の治療のため通常勤務が難しいと職場に支援を申し出ることにメリットよりもデメリットを強く感じていることが報告されている.本研究では,職場の協働的風土ならびに労働者の被援助に対する態度に着目し,中小企業の労働者において,就業上の配慮を要する状況下での両立支援の申出意図を促進し得る要因を検討した.対象と方法:わが国の業種・従業員規模別の就業人口割合の縮図となるようサンプリングされた,中小企業勤務の20歳~64歳の正社員で,病気による1ヶ月以上の病気欠勤,病気休職,時短勤務などの就業制限を受けたことがない労働者モニター3,286人を対象としてインターネット調査を実施した.職場の協働的風土および被援助に対する肯定的態度の測定尺度とともに,産業保健スタッフの有無,経営トップの健康関連指針の有無,勤務先の経営状況,柔軟な勤務・休暇制度,相談窓口の有無,職場外での相談相手の有無ならびに基本属性を尋ねた.さらには,治療と仕事の両立支援のリーフレットを提示し概要を把握させたうえで,回答者本人ががんや脳卒中などに罹患し,主治医からこれまで通りの勤務は難しいと指摘された場面を想定させ,このような状況下での両立支援の申出意図を尋ねた.協働的風土および被援助に対する態度を主たる説明変数,両立支援の申出意図を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した.結果:両立支援についてのリーフレット提示後には,研究参加者の約75%が両立支援について積極的に申し出る意図を報告した一方で,申出に積極的でない者も約25%見られた.協働的風土が最も低いグループと比較して,協働的風土が最も高いグループでは有意に多くの者が両立支援の申出意図を報告した(オッズ比:1.5,95%信頼区間:1.1~1.9).同様に,被援助への肯定的態度が最も低いグループと比較して,肯定的態度が最も高いグループでは有意に多くの者が両立支援の申出意図を報告した(オッズ比:1.4,95%信頼区間:1.1~1.7).経営状況,柔軟な勤務・休暇制度の有無,相談窓口の有無,および職場外での相談相手の有無も両立支援の申出意図と有意な関連が認められた(オッズ比:1.3~2.0).従業員規模による層別分析の結果,従業員数50人未満の層では被援助への肯定的態度と両立支援の申出意図との関連は有意でなく,協働的風土の強さのみが両立支援の申出意図と有意に関連していた.考察と結論:中小企業においても,両立支援の認知度を向上させることで労働者の支援の申出意図を高める可能性が示唆された.その一方で,産業保健スタッフや柔軟な勤務・休暇制度の有無などの要因とは独立して,協働的風土や被援助に対する肯定的態度は両立支援の申出意図と有意に関連していた.両立支援について認知してもなお支援の申出に消極的な労働者に対しては,集団分析や職場環境改善プログラムによる職場風土の改善,および社内研修における好事例の情報提供による被援助への肯定的態度の強化などによって両立支援の申出を促進し得る可能性が示唆された.

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© 2022 公益社団法人 日本産業衛生学会
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