産業衛生学雑誌
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原著
シリカ粒子の炎症誘発性の予測を目的とした赤血球溶血性試験の利用に関する検討
天本 宇紀 豊岡 達士山田 丸柳場 由絵王 瑞生甲田 茂樹
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2023 年 65 巻 3 号 p. 125-133

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抄録

目的:職業性疾病であるけい肺の原因物質とされる結晶質シリカは,粒径や表面特性等の粒子特性が異なる多種多様な製品(粒子)が製造されている.我が国において,これらの製品は,2018年の労働安全衛生法施行令の一部改正につき,表示・通知義務対象物質である結晶質シリカとして一律に管理されるようになったが,粒子特性によってその毒性が変化することが報告されており,事業者は,シリカ粒子ばく露による予期せぬ健康障害を防止するためにも,製品ごとに適切なリスクアセスメントを実施することが望まれる.本研究では,シリカ粒子による炎症反応のきっかけになると考えられているリソソーム膜損傷を赤血球膜損傷に見立て,炎症誘発性を有する可能性があるシリカ粒子のスクリーニングの指標としての赤血球溶血性の利用可能性を検証することを目的とした.方法:粒径,結晶度,表面官能基の異なるシリカ粒子について,健常者ボランティア男性の血液から単離した赤血球を用いて溶血性試験を行った.また,シリカ粒子と他元素粒子間における溶血性の比較や,市販の結晶質シリカ粒子製品27種類において試験的なスクリーニングを試みた.結果:シリカ粒子の溶血性は,非晶質よりも結晶質の方が高く,粒径が小さいほど上昇した.他元素の粒子はほとんど溶血性を示さず,シリカ粒子の表面に金属イオンが吸着すると溶血性が抑制された.産業現場で使用されている結晶質シリカの製品群では,製品間で溶血性が大きく異なった.考察と結論:本研究は,粒径,結晶度,表面官能基といった粒子特性が,シリカ粒子の溶血性に影響を及ぼすことを明らかにした.中でも特に,シリカ粒子特有の表面官能基(シラノール基)が溶血性に強く関与しているであろうと考えられた.また,産業現場の製品群においても,溶血率を基準にしたグレード分けが可能であり,溶血性は,炎症誘発性を有する可能性があるシリカ粒子のスクリーニングにおける評価指標の一つになりうることが示唆された.

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© 2023 公益社団法人 日本産業衛生学会
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