システム制御情報学会 研究発表講演会講演論文集
第49回システム制御情報学会研究発表講演会
セッションID: 2B4-3
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多品種の製品需要を考慮したサプライチェーン最適設計問題に対するハイブリッド解法
清水 良明和田 健*山崎 善広
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抄録
近年、経済のグローバル化による市場拡大や企業の統廃合により物流ネットワークは広域化・複雑化し、効率的なサプライチェーンの設計が重要な課題となっている。本研究では、サプライチェーン設計に対する戦略的意思決定支援として先に提案した単一品種の製品需要に対する輸送経路問題を内包した施設配置題を、複数品種に拡張するとともに、より効率的な最適化手法の提案を行なう。そして、汎用の最適化ソフトウェアとの比較実験を通じて本手法の有効性を示す。本研究では、工場、配送センタ候補、顧客から構成されるサプライチェーンモデルを対象として問題の定式化を行なった。各工場には各製品の最大製造量と最小製造量、各配送センタ候補には全品種の合計量に対する保管容量、各顧客には各製品の需要が与えられているものとした。このとき、総費用が最小となるように、開設する配送センタおよび工場から顧客まで配送センタを経由した製品種毎の輸送経路を決定することを目的とする。なお、総費用は、配送センタの開設費用、各施設間の距離と輸送量の積からなる輸送費用、工場における製造費用、配送センタにおける保管費用からなるものとする。この問題は一般的な施設配置問題と同様にNP困難な組合せ最適化問題となるために、問題規模が大きくなった場合に実用時間内に求解を行なうことは事実上不可能となる。そこで、本研究では、この問題に対する実用的近似解法としてメタ戦略とグラフアルゴリズムによるハイブリッド解法の提案を行なう。この解法は、原問題を配送センタの配置決定を行なう上位レベルのサブ問題と、輸送経路の決定を行なう下位レベルのサブ問題に分解し、階層化したうえで上下各レベルを繰返し解くことで解の改善を行なっていく方法である。この方法により、各サブ問題の探索空間は、原問題を一挙に解く場合と比較して極めて縮小され、また各サブ問題に対して固有の特徴に着目した効果的・効率的な解法の適用が可能となる。上位レベルにおける配送センタの開設決定を行なうサブ問題では、この問題が組合せ最適化問題に属することからメタ戦略による求解を行なう。すなわち「基準とする現在の配置に少しの変更を加えたいくつかの配置(近傍解)を生成し、下位レベルの経路決定を通じて配置の評価を行ない、もし、現在の配置よりも良い評価が得られたら、次はその配置を基準にいくつかの近傍解を生成し評価を行なう」といった手順を繰返し、解の改善を行なう方法である。なお実際の探索には、タブサーチを用いた。一方、下位レベルでは、上位レベルで決定された配送センタの配置の下で、各製品の輸送経路決定を行なう。この問題は線形計画問題として定式化できるが、問題の構造に着目し等価な最小費用流問題に変換することにより、グラフ理論に基づく効率的な求解が可能となる。本研究では最小費用流問題に対する解法としてGoldbergによって提案されたCS2(計算オーダーO(nm log (nC)))を用いて経路決定問題の求解を行なう。この求解手順を製品ごとに適用して、まずそれぞれの輸送経路を求めることにした。しかし製品ごとに求めた結果を単純に足し合わせるだけでは、配送センタの保管容量を超えてしまう場合が起こる。そこで、保管容量を超えた配送センタに対しては仮想的な上乗せ費用としてペナルティを与えて再計算し、保管容量を満たすまでこれを繰り返す手法を採用した。提案解法の有効性の検証を行なうために、2つの数値実験を行なった。最初のものでは経路決定問題を最小費用流問題に変換しグラフアルゴリズムで求解することの有効性を検証した。そのために、線形計画問題として直接的に最適化ソフトウェアlp_solveによって解く方法との間で近似精度と求解速度の両面から比較を行なった。その結果より、直接的に線形計画問題を解くよりも提案した手法によって求解するほうが高速に高精度な解を得られることが確認できた。次に、配置と経路を同時に求める原問題に対して、本研究で提案したメタ戦略とグラフアルゴリズムによるハイブリッド解法で求解することの有効性の検証を行なった。提案手法、lp_solve、商用の最適化ソフトウェア(CPLEX)の3手法によって、総施設数200程度のベンチマーク問題の求解を行ない、近似精度と求解時間の両面から比較を行なった。この結果、本手法によって実用時間内(数分以下)で平均的に近似度1.0003程度の高精度な解を得ることができた。以上の数値実験結果を通じて提案解法の有効性を示した。
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© 2005 システム制御情報学会
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